秘密の令嬢は敵国の王太子に溶愛(とか)される【完結】

remo

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secret.Ⅰ

04.

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そっかー、じゃあいっか。
…って、本当にいいのかよ?

ウルフに甘やかされ続け、常に身体のどこかが繋がっているような状態で、更に何日か過ごして、緩み切った頭がようやくほんのり回り始める。

良くねえよな? 全然良くない。

「レイ、お前が好きな桃の水菓子だ。口を開けろ」

ウルフがベッドの上で俺を横抱きにして、ピンク色のひんやりとしたデザートをスプーンで俺の口の中に押し込む。つるりと柔らかく、ちょうどいい甘さが喉の奥を滑り落ちていく。青龍国は俺が住んでいた霧の谷よりずっと土壌が豊からしく、食べたことのないような美味しい食べ物がたくさんある。中でもみずみずしくて甘いこの国の桃は格別の美味しさだ。

「…うまっ」

思わず呟くと、満足げに笑ったウルフが俺を撫でながら耳にキスして、そのまま舌を這わせた。

「おい、…」

そんなことしたら桃の味が分からなくなるだろ、と暗に睨むも、

「いや、お前が可愛いのが悪い」

ウルフはまるで悪びれずに、手のひらで俺の肌を辿りながら舌で耳を弄ぶ。耳が甘く溶ける。ウルフに撫でられると瞬く間に快感がさざめき立つ。

「ほら、まだ食べるだろう?」

無意識に腰をくねらせる俺をなだめるように撫でながら、ウルフがまた俺の口に桃を入れる。桃の菓子を堪能したいのに、熱くなった身体がその先を求めて落ち着かない。

「ん、…っ」

ウルフに食べさせられた水菓子の滑らかささえも俺を刺激する。

「…こぼしてる」

上手く咀嚼そしゃく出来ずに俺が滴らせた汁をウルフが舐めとる。

「どこもかしこも、お前は甘い」

長い舌をこれ見よがしに突き出したウルフは、そのまま口移しで俺に桃を与えた。ウルフと桃が混ざり合って、俺を快楽にいざなう。俺を溶かす甘さとどこか卑猥に響く音。聴覚と触覚が俺の感度を加速させる。

「ちょ、…待て」

そうだ、待て!
なけなしの理性が蕩け切る寸前、なんとか俺を引き留まらせた。

だからっ、このままで良いわけないんだって!

「なんだ?」

唇を重ね合わせたまま、甘く揺れる青い瞳が俺をとらえる。

「…ウルフ。俺は、本当は、…」

レイじゃない。女でもない。
お前を欺いて妹を逃した双子の兄貴で、お前の寵愛を受けるべきじゃない。

「…どうした? なんでも聞いてやる。お前の望みはなんでも叶えてやる。だから、泣くな」

ウルフが俺の涙に唇を寄せる。

いつ男に戻るか分からない俺は、世継ぎの王太子であるウルフの相手にはなれない。それをちゃんと伝えなきゃいけないのに、勝手に涙がこぼれて言葉が出ない。

「お前が好きだ。心から愛しく思っている。お前のためなら何でもしてやる」

真摯な瞳が真っ直ぐに俺を貫く。

ウルフが愛を囁くべき相手は俺じゃない。本物のレイは、恋人と逃げた。俺が逃した。

「…レイ。愛してる」

ウルフの一途な愛情が俺を包む。その深さを感じれば感じるほど、涙が止まらなくなる。胸が痛い。苦しい。どうすればいいか分からない。

なんでこんなことになった?

泣き止まない俺を困ったようになだめながら、しっかり抱き寄せたウルフが、俺の髪に、こめかみに、瞼に、慈雨のような温かいキスを降らせる。

「心配するな。何があっても絶対にお前を離さないから」

柔らかくて優しいウルフの唇が沁みる。

ウルフが好きなのは俺じゃない。共に生きていきたいのは俺じゃない。

それが、切り刻まれるように痛い。

レイの振りをしてレイを逃したことは後悔していない。そうするより他になかった。ただ、ウルフを騙しているのがつらい。ウルフがこんなにもレイを大切に想っていることが、俺を打ちのめす。

このまま身も心もレイに変われたらいいのに。

ふいに頭をよぎった思考に衝撃を受けた。

ちょっと待て。俺、今、何考えた?

涙の膜の向こうでウルフの青い瞳がゆらゆら揺れる。綺麗で。どこか懐かしくて。俺をとらえて離さない深い青。

もしかして、俺、…俺は、…
いや、まさか。いくら気持ちいいからってそんな。
だって、まさか。いつの間に、そんな、…

思考が混乱を極める。

「…お前が好きだ。お前だけだ」

ウルフの言葉が嬉しいのに悲しい。ウルフの唇が優しいのに痛い。行き場のない想いが涙に形を変えて、後から後からこぼれ落ちる。

離れるしかない。出ていくしかない。真相を明かして。

王太子を騙して青龍国民を欺いた。易々と許されるはずもない。死罪に値するかもしれない。それも本望だ。どんな咎めも受ける。最近からそのつもりだった。

でも。
出来れば、一緒にこの国に来ているはずの婆だけは見逃して欲しい。

ごめんな、婆。
俺とレイと婆。俺たち、3人だけの家族だったのに。

「婆に、…会い、たい」

泣くだけ泣いて泣き疲れ、自分が何を口走ったか記憶にないまま、ぱたりと糸が切れたように眠りに落ちた。

そんな俺を、ウルフはずっと優しく抱きしめて、離さなかった。
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