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番外編.【三年後】
前編
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玉砂利の上を厳かに進む。
晴れた広い空の下、緑の杜に囲まれて、神職に導かれながら参列者と共に歩んでいくと、参拝客や観光客からも温かな拍手喝さいを受けた。
伝統ある神宮で行われる参進の儀。
何百年も前から続く同じ空の下で、そこにたたずむ木立に見守られながら、紋付き袴姿の穂月と並んで、一歩一歩進んでいける幸せに、既に泣きそうになって何度も目を瞬いた。泣いたら化粧が崩れてしまう、…っ
「なえ。祝言を上げるぞ」
高校を卒業した穂月は、時間と空間の関係に興味を持ち、物理学の分野に進学した。中でも量子力学の研究に熱心で、大学に籍を置きながら化学研究所の研究員として働き、企業との共同開発にも従事している。そのルックスの良さでどこにいても注目を集める穂月は、量子力学界の広告塔のような役割も担っている。
おかげで今では、就職10年目を迎えた私をはるかに上回る稼ぎがある。顔がいいって才能だよね、ってそうでなく、
「やっとお前と祝言を上げられる」
穂月がずっと言ってくれていた結婚式を挙げることが出来そうなのだ。
いや、私だってつつましく貯金してましたから。全部出してもらうわけじゃないですから。社会人としては私の方が先輩ですから。
収入、あるいはルックス格差はともかくとして、穂月と卯月といる生活は穏やかで楽しくて、私は何を恐れていたんだろうと思うほど幸せに満ちていた。
歳の差とか立場とか、時代とか世間の目とか。
色々あり得ないと思ったけど、でも、穂月が私に会いに来てくれたから。
今ここで会えたから。それが全てだ。
保護者や近所の方に非難されることもあったけど、校長先生の言う通り、役所で足固めが出来ていたので、それほど大事にはならなかった。
やってみたら案外大丈夫、なこともあるのだと知った。
そして、誰にでも平等に流れる時間は救いになるということも。
「あんたのことは底知れぬバカだと思ったけど、人生って訳分からなくて面白いね」
得体のしれない穂月のことを心配して警戒してくれていたマキちゃんにも、豪快に祝福してもらった。
「正直、半信半疑なとこもあるよ。いわくつきの刀が消えたり、三宮さんが豹変したり。あんたがあの一瞬で過去に飛ばされてたってのもよく分からないし。それによって穂月が話してた過去と今とが変わったりしないのかな、とかさ」
まあそれは確かに。
いまだに信じられないしよく分からない。
私が見てきた過去では、穂月は城主になってたし、家督も義弟に譲るってことだったから、晴信になえとの関係を反対されることもなかったんじゃないか、とか、は思ったりもする。
「…記憶の詳細は一部塗り替えられた。でも、結局、敵城主を討って、なえを刺してしまった記憶は変わらない」
細部は変わっても結果は変わらないということなのか。
それとも、こことは違う別の未来が存在しているってことなのか。
「だから俺も時間と空間の関係を知りたいと思っている。でもまだ分からないことが多いな」
霊魂とか呪術とか。
過去で浮遊霊みたいに漂ったのも今では夢だったような気もしてくる。
でも、説明がつくことばかりが真実とは限らない。
「うーくん、おおきくなったらリンと結婚しようね」
「何言ってんの、うーくんはランと結婚するのっ」
ちなみに、天使のように可愛い格好をしたマキちゃんちの双子、リンちゃんとランちゃんは、現在、卯月と同じ幼稚園に通っていて、謎の三角関係が出来上がっている模様。
「卯月はてんとうむしさんと結婚します」
「は!? 暗っ」「ねーわ」
物わかりの良すぎる三歳児だった卯月は、その後昆虫観察に目覚め、蜘蛛やら蜂やらを見かけてぎゃあぎゃあ騒いでいる私を優しくたしなめながら彼らを逃がしてくれる。将来は昆虫学者になると思う。(親バカ)
晴れた広い空の下、緑の杜に囲まれて、神職に導かれながら参列者と共に歩んでいくと、参拝客や観光客からも温かな拍手喝さいを受けた。
伝統ある神宮で行われる参進の儀。
何百年も前から続く同じ空の下で、そこにたたずむ木立に見守られながら、紋付き袴姿の穂月と並んで、一歩一歩進んでいける幸せに、既に泣きそうになって何度も目を瞬いた。泣いたら化粧が崩れてしまう、…っ
「なえ。祝言を上げるぞ」
高校を卒業した穂月は、時間と空間の関係に興味を持ち、物理学の分野に進学した。中でも量子力学の研究に熱心で、大学に籍を置きながら化学研究所の研究員として働き、企業との共同開発にも従事している。そのルックスの良さでどこにいても注目を集める穂月は、量子力学界の広告塔のような役割も担っている。
おかげで今では、就職10年目を迎えた私をはるかに上回る稼ぎがある。顔がいいって才能だよね、ってそうでなく、
「やっとお前と祝言を上げられる」
穂月がずっと言ってくれていた結婚式を挙げることが出来そうなのだ。
いや、私だってつつましく貯金してましたから。全部出してもらうわけじゃないですから。社会人としては私の方が先輩ですから。
収入、あるいはルックス格差はともかくとして、穂月と卯月といる生活は穏やかで楽しくて、私は何を恐れていたんだろうと思うほど幸せに満ちていた。
歳の差とか立場とか、時代とか世間の目とか。
色々あり得ないと思ったけど、でも、穂月が私に会いに来てくれたから。
今ここで会えたから。それが全てだ。
保護者や近所の方に非難されることもあったけど、校長先生の言う通り、役所で足固めが出来ていたので、それほど大事にはならなかった。
やってみたら案外大丈夫、なこともあるのだと知った。
そして、誰にでも平等に流れる時間は救いになるということも。
「あんたのことは底知れぬバカだと思ったけど、人生って訳分からなくて面白いね」
得体のしれない穂月のことを心配して警戒してくれていたマキちゃんにも、豪快に祝福してもらった。
「正直、半信半疑なとこもあるよ。いわくつきの刀が消えたり、三宮さんが豹変したり。あんたがあの一瞬で過去に飛ばされてたってのもよく分からないし。それによって穂月が話してた過去と今とが変わったりしないのかな、とかさ」
まあそれは確かに。
いまだに信じられないしよく分からない。
私が見てきた過去では、穂月は城主になってたし、家督も義弟に譲るってことだったから、晴信になえとの関係を反対されることもなかったんじゃないか、とか、は思ったりもする。
「…記憶の詳細は一部塗り替えられた。でも、結局、敵城主を討って、なえを刺してしまった記憶は変わらない」
細部は変わっても結果は変わらないということなのか。
それとも、こことは違う別の未来が存在しているってことなのか。
「だから俺も時間と空間の関係を知りたいと思っている。でもまだ分からないことが多いな」
霊魂とか呪術とか。
過去で浮遊霊みたいに漂ったのも今では夢だったような気もしてくる。
でも、説明がつくことばかりが真実とは限らない。
「うーくん、おおきくなったらリンと結婚しようね」
「何言ってんの、うーくんはランと結婚するのっ」
ちなみに、天使のように可愛い格好をしたマキちゃんちの双子、リンちゃんとランちゃんは、現在、卯月と同じ幼稚園に通っていて、謎の三角関係が出来上がっている模様。
「卯月はてんとうむしさんと結婚します」
「は!? 暗っ」「ねーわ」
物わかりの良すぎる三歳児だった卯月は、その後昆虫観察に目覚め、蜘蛛やら蜂やらを見かけてぎゃあぎゃあ騒いでいる私を優しくたしなめながら彼らを逃がしてくれる。将来は昆虫学者になると思う。(親バカ)
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