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iiyori.10

09.

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「あれ~~、菜苗さん。今お帰りですか? 奇遇ですね??」

家までの帰り道を穂月と手を繋いで、この上なく幸せな気持ちでふわふわ歩いていたら、前方から季節外れの巨大な雪だるまが接近してきた。

「あ、達磨だるま法師、…」
「え、菜苗さんまでだるまさん認定??」
「あ、いえ。東丸さん。その節はお世話になりました。僧としての威厳が保ててよかったですね」
「いつの間にボウズ??」

巨大な雪だるま、こと、結婚相談所で知り合った東丸マモルさん。

振り返ればこの人にも、巻き込んだり巻き込まれたり、助けられたりひどい目に遭わされたり。まあ、そうやって色々積み重なって今が出来ているのかもしれない。

「なんですか、仲良さげに区役所から。めでたく入籍ですか」

東丸さんがちょっと皮肉気な物言いで、これ見よがしに繋がれた手に視線を向け、

「ハッ!? よもや第二子、…??」

人のお腹を見て手で口を押えた。
ちょっとちょっと、今、私の下っ腹が出てるって言った!?

「まあ。可能性はなくはないが、…」
「青少年っ!! オブラートっっ」

自分で振ったくせに人一倍焦った様子の東丸さんを見て、穂月はいたずらに笑うと、

「…達磨。先の決戦は、お前のおかげで助かった。礼を言う」
「穂月くんまでだるまさん浸透中? ねえ、僕もう、だるまで確定なの??」
「おかげで気づけたこともある。これからも指南して欲しい」
「え、…あ、はい」

なんだかその場を和やかに収めた。

「まあ、菜苗さんが幸せそうで何よりです」

東丸さんが改めてといった感じで、私たちに目を向ける。

「幸せって自分にしか決められませんもんね。無職貧乏学生と大手一流商社勤務の年収1000万超え。火を見るよりも明らかだって思いましたけど、さっき道の向こうから三人を見かけた時、すごく幸せそうに見えて、…完敗です。菜苗さんを幸せに出来るのは、穂月くんだけなんでしょうね」

そう。そうなんだよ、東丸。
穂月じゃなきゃダメなんだよ。

思いがけず東丸さんが良いことを言ったので、感慨が込み上げてきて穂月の手を強く握ったら、

「俺に幸せをくれるのもなえだけだ」

穂月が優しく握り返してくれた。

待って、無理、泣く。

涙ぐんでしまった私を呆れたように、でも、ほんのり羨ましそうに見て、

「はあ、まあ、好きにしてください、このバカップルは。僕はこれから人と会うんで。年収と経歴を武器にラブを勝ち取ってみせますよ」
「…だるまさん、がんばって」
「待って。僕のラブ、ここ?? 卯月くん、まただるまおじちゃんと遊んでくれるかな??」
「はい」

目を覚ました卯月としばしじゃれ合ってから、東丸さんは颯爽と去っていった。

「よし、今日は牛蒡の炊き込みご飯にしよう。特訓の成果を見せる時じゃ」

なんだか本当に幸せを実感して、めらめらとやる気が湧き起こってきた。
穂月から降りた卯月を真ん中に、つないだ手をぶんぶん振り回したら、

「うづきもおてつだいします」

丸くて柔らかい幸せの結晶みたいな卯月の手がぎゅっと握りしめてくれた。





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この後【番外編】更新予定です。
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