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iiyori.10
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結婚会見、て。
そんな大それたことじゃないし。授業中だし。ほんの余談だし、…
と、うろたえる私を置き去りに、幾分かしこまった様子の卯月を抱っこした穂月がサクッと教壇に上がって私の隣に並んだ。
「ありがとうございます」
「か、…かたじけないでござる」
いつの間にか他のクラスで授業を受けていた生徒たちも先生方も、なぜか校長先生や職員室の皆さんまで教室に集まっている。
「ねえねえ、見えない」「押すな押すな」
「学校で教師と生徒の結婚会見てすごくない?」
「なえちゃんセンセ―の隠し子、隠し子じゃないんだ?」
「歳の差恋愛な上、タブー恋愛??」
「やだやだ、ずるい」「イケメン独り占め。ダメ、絶対」
圧倒的な好奇心の隅で、可愛い女生徒たちが一部絶望感に揺さぶられて、悲壮な様子を見せている。
「まあまあ」「とりあえず話聞こうぜ」
教室には入りきれずに廊下にも人が鈴なりになっていて、いつの間にか押し合いへし合いの大混雑状況になっていた。
「俺は、なえと祝言を上げるためにここに来た」
穂月の凛とした声が響く。一瞬にしてその場が静まり返った。
穂月は一国一城の主だったから。
何千何万の兵士を指揮する武将で、戦場を先陣を切って駆け抜けてたから。人心をつかむのは得意というか、生まれながらの将軍というか、注目されるのにも慣れていて、一瞬にして全員の視線をさらっていく。
「でも今はまだ、俺と卯月はなえに保護されている。俺は、この世界で妻と子を守って生きていく力を身に着けたい。そのために、出来ることは何でもやる。だからどうか、皆さんには、…力を貸して欲しい、です」
好奇や興味や嘲りや、スキャンダラス的なものを探ろうとする視線が消えた。
恨みや嫉みや僻みのような、負の空気がなくなった。悲壮感を漂わせていた女生徒たちも、諦めと納得が混ざり合った寛容な表情を浮かべていた。温かな拍手が沸き起こり、それが教室中に広がって、校舎に集う人たちを包んだ。
「あんな風にお願いされちゃ、協力するしかないよね」
「どうせ付け入る隙はどこにもないし」
「あんなに流されやすそうななえちゃんセンセ―なのに、あんたにはまるで流されなかったもんね」
「悪かったな」
教室の後ろの方に陣取った鷹峰 明希と坂下 沙里が小声で囁く。
「あんな、…この世界にただ一人の運命の相手みたいな二人じゃ、悔しいけど敵わないな」
「…なに。お前穂月に結構本気だったんだ?」
「あーあ。私も30までにあんな人に出会いたい」
「まあ、あと十数年じゃ無理かもよ? アイツら100年単位じゃん」
「…確かに」
二人は、顔を見合わせて同志の笑みを浮かべた。
拍手の中、校長先生が進み出て、教壇に並んだ。
「18歳は成人ですからね。自分で物事を判断しなければならない。とはいえ、選択を間違えたと思うことも、失敗したと思うこともあるでしょう。でも、その時精いっぱい悩んで決めたことならば、それは失敗ではなく、必要な過程だったということです」
最後に、校長先生が私と穂月に向き直る。
「倉咲先生、志田くん、ご結婚おめでとうございます。必要な手続等についてお話ししたいので、この後校長室に来てもらえますか」
校長先生はとても寛大で、そして、とても現実的だった。
そんな大それたことじゃないし。授業中だし。ほんの余談だし、…
と、うろたえる私を置き去りに、幾分かしこまった様子の卯月を抱っこした穂月がサクッと教壇に上がって私の隣に並んだ。
「ありがとうございます」
「か、…かたじけないでござる」
いつの間にか他のクラスで授業を受けていた生徒たちも先生方も、なぜか校長先生や職員室の皆さんまで教室に集まっている。
「ねえねえ、見えない」「押すな押すな」
「学校で教師と生徒の結婚会見てすごくない?」
「なえちゃんセンセ―の隠し子、隠し子じゃないんだ?」
「歳の差恋愛な上、タブー恋愛??」
「やだやだ、ずるい」「イケメン独り占め。ダメ、絶対」
圧倒的な好奇心の隅で、可愛い女生徒たちが一部絶望感に揺さぶられて、悲壮な様子を見せている。
「まあまあ」「とりあえず話聞こうぜ」
教室には入りきれずに廊下にも人が鈴なりになっていて、いつの間にか押し合いへし合いの大混雑状況になっていた。
「俺は、なえと祝言を上げるためにここに来た」
穂月の凛とした声が響く。一瞬にしてその場が静まり返った。
穂月は一国一城の主だったから。
何千何万の兵士を指揮する武将で、戦場を先陣を切って駆け抜けてたから。人心をつかむのは得意というか、生まれながらの将軍というか、注目されるのにも慣れていて、一瞬にして全員の視線をさらっていく。
「でも今はまだ、俺と卯月はなえに保護されている。俺は、この世界で妻と子を守って生きていく力を身に着けたい。そのために、出来ることは何でもやる。だからどうか、皆さんには、…力を貸して欲しい、です」
好奇や興味や嘲りや、スキャンダラス的なものを探ろうとする視線が消えた。
恨みや嫉みや僻みのような、負の空気がなくなった。悲壮感を漂わせていた女生徒たちも、諦めと納得が混ざり合った寛容な表情を浮かべていた。温かな拍手が沸き起こり、それが教室中に広がって、校舎に集う人たちを包んだ。
「あんな風にお願いされちゃ、協力するしかないよね」
「どうせ付け入る隙はどこにもないし」
「あんなに流されやすそうななえちゃんセンセ―なのに、あんたにはまるで流されなかったもんね」
「悪かったな」
教室の後ろの方に陣取った鷹峰 明希と坂下 沙里が小声で囁く。
「あんな、…この世界にただ一人の運命の相手みたいな二人じゃ、悔しいけど敵わないな」
「…なに。お前穂月に結構本気だったんだ?」
「あーあ。私も30までにあんな人に出会いたい」
「まあ、あと十数年じゃ無理かもよ? アイツら100年単位じゃん」
「…確かに」
二人は、顔を見合わせて同志の笑みを浮かべた。
拍手の中、校長先生が進み出て、教壇に並んだ。
「18歳は成人ですからね。自分で物事を判断しなければならない。とはいえ、選択を間違えたと思うことも、失敗したと思うこともあるでしょう。でも、その時精いっぱい悩んで決めたことならば、それは失敗ではなく、必要な過程だったということです」
最後に、校長先生が私と穂月に向き直る。
「倉咲先生、志田くん、ご結婚おめでとうございます。必要な手続等についてお話ししたいので、この後校長室に来てもらえますか」
校長先生はとても寛大で、そして、とても現実的だった。
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