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iiyori.10
03.
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『なえ、…――――――』
懐かしい愛しい声音に目を開けると、黒く澄んだ瞳が私を覗き込んでいた。
「ほづき、…」
「気が付いたか。良かった」
穂月が柔らかく私を抱きしめる。
穂月の匂いとしなやかな体躯と優しい温もりを肌に感じて、ついさっきまで確かに私の中にいた穂月の名残に身体が震えた。
まだ、穂月と繋がっているみたい、…
「あ、こっちも気が付いた」
向こうの方で、別の声が上がる。マキちゃんの声。鷹峰くんの声もする。
私はベッドの上に穂月と一緒に座っていて、開かれたカーテンの先には、昼下がりののどかな保健室が見える。
身じろぐと私を抱きしめていた穂月が腕を緩めて目を合わせ、
「…俺のこと、思い出した?」
少し悪戯っぽく、でもすごく優しい顔をして、小首を傾げた。
耳元に残っている穂月の声より、低くて落ち着いている。身体も一回り大きくしっかりしていて、顔つきに精悍さが増している。幼さの残る可愛い面差しから、凛々しさと逞しさが際立つ男らしい顔つきになって、匂い立つような色気もまとっている。
「…穂月、大きくなった」
「そうだな」
穂月は優しく笑って私の髪に手を差し入れ、耳を撫でた。
指先が甘くて優しい。柔らかくてくすぐったくて温かい。
穂月が成長している。
無鉄砲で繊細で、強くて傷つきやすい穂月はもういない。
弱冠14歳にして、重い宿命を背負って戦の先陣を駆けていた穂月を思ったら、なんだか涙が出てきた。
帰ってきたんだ。現代に。令和の平和な世の中に。
魂が時空を飛んでいく前の、勤務先の高校の保健室に。
「…なんだ? 若い方が良かった?」
冗談めかして笑いながら、穂月が長い指先で私の涙をぬぐう。
首を横に振ったら、溢れた涙がポロポロ落ちた。
「私、穂月を置いてきちゃった。あの過酷な時代に、…い、一緒に、帰ろうって、一人に出来ないって、…思ってたのに、…」
穂月と一緒に未来に帰りたかった。
だけど結局。私は何も出来なかった。
戦いが正義の世の中で、殺し合いも厭わない時代に。
まだ中学生で家督を継いで、領地領民を背負って奔走する穂月を一人残してきてしまったんだ。
「…いや」
穂月の大きな手が頬を包んで優しく髪を撫でる。
「一人じゃなかった。お前と卯月を授かった。避けられない争いもあったけど、またお前に会えた。約束しただろ。何があっても必ずお前に会いに行くと。時代が変わっても見た目が変わっても、俺がお前を間違えるはずはない」
穂月の柔らかい唇がそっと涙に触れた。
…穂月だ。
どうして、忘れていたんだろう。
たくさんキスして。たくさん抱き合って。
永遠に消えない穂月だけのしるしを刻んでもらったのに。
「…穂月だいすき、…」
手を伸ばして、穂月を力いっぱい抱きしめた。
ただ一人だけの愛しいこの人を、どうして忘れていられたんだろう。
懐かしい愛しい声音に目を開けると、黒く澄んだ瞳が私を覗き込んでいた。
「ほづき、…」
「気が付いたか。良かった」
穂月が柔らかく私を抱きしめる。
穂月の匂いとしなやかな体躯と優しい温もりを肌に感じて、ついさっきまで確かに私の中にいた穂月の名残に身体が震えた。
まだ、穂月と繋がっているみたい、…
「あ、こっちも気が付いた」
向こうの方で、別の声が上がる。マキちゃんの声。鷹峰くんの声もする。
私はベッドの上に穂月と一緒に座っていて、開かれたカーテンの先には、昼下がりののどかな保健室が見える。
身じろぐと私を抱きしめていた穂月が腕を緩めて目を合わせ、
「…俺のこと、思い出した?」
少し悪戯っぽく、でもすごく優しい顔をして、小首を傾げた。
耳元に残っている穂月の声より、低くて落ち着いている。身体も一回り大きくしっかりしていて、顔つきに精悍さが増している。幼さの残る可愛い面差しから、凛々しさと逞しさが際立つ男らしい顔つきになって、匂い立つような色気もまとっている。
「…穂月、大きくなった」
「そうだな」
穂月は優しく笑って私の髪に手を差し入れ、耳を撫でた。
指先が甘くて優しい。柔らかくてくすぐったくて温かい。
穂月が成長している。
無鉄砲で繊細で、強くて傷つきやすい穂月はもういない。
弱冠14歳にして、重い宿命を背負って戦の先陣を駆けていた穂月を思ったら、なんだか涙が出てきた。
帰ってきたんだ。現代に。令和の平和な世の中に。
魂が時空を飛んでいく前の、勤務先の高校の保健室に。
「…なんだ? 若い方が良かった?」
冗談めかして笑いながら、穂月が長い指先で私の涙をぬぐう。
首を横に振ったら、溢れた涙がポロポロ落ちた。
「私、穂月を置いてきちゃった。あの過酷な時代に、…い、一緒に、帰ろうって、一人に出来ないって、…思ってたのに、…」
穂月と一緒に未来に帰りたかった。
だけど結局。私は何も出来なかった。
戦いが正義の世の中で、殺し合いも厭わない時代に。
まだ中学生で家督を継いで、領地領民を背負って奔走する穂月を一人残してきてしまったんだ。
「…いや」
穂月の大きな手が頬を包んで優しく髪を撫でる。
「一人じゃなかった。お前と卯月を授かった。避けられない争いもあったけど、またお前に会えた。約束しただろ。何があっても必ずお前に会いに行くと。時代が変わっても見た目が変わっても、俺がお前を間違えるはずはない」
穂月の柔らかい唇がそっと涙に触れた。
…穂月だ。
どうして、忘れていたんだろう。
たくさんキスして。たくさん抱き合って。
永遠に消えない穂月だけのしるしを刻んでもらったのに。
「…穂月だいすき、…」
手を伸ばして、穂月を力いっぱい抱きしめた。
ただ一人だけの愛しいこの人を、どうして忘れていられたんだろう。
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