戦国男子高校生に言い寄られてます!?【完結】

remo

文字の大きさ
上 下
80 / 92
iiyori.09

08.

しおりを挟む
陣の谷を朝日が照らす。

「良いか、敵軍羽間は我が嫡男穂月を人質に降伏を求めている。先代より賜ったこの地を侵略し、我らを羽間の奴隷にするつもりだ!!」

ひしめく志田軍の先頭に立つ大将軍・晴信が、軍を鼓舞するため大声を張り上げた。

「そんな卑劣な奴らに臆するなっ!! 戦え!! 志田の誇りを忘れるな。最後の一人になっても、戦え、戦え、戦い抜くのだっ!!」

「「「おおお――――――っっ」」」

気合で挑む志田軍の士気は最高潮にまで達し、咆哮が朝日煌めく谷にこだました。

一方。
対岸には数で圧勝する羽間軍がずらりと並び、その中央に、総大将・羽間 勝光はざま まさみつ、その隣に志田穂月がたたずんでいた。

「…穂月殿。晴信殿は徹底抗戦の構えです。合戦は避けられませんな、…」

穂月の意を汲んで交渉に踏み出した羽間勝光だったが、志田晴信はそれを断固はねのけた。

「勝光殿には交渉に臨んでいただき有難うございます。この合戦、まずは私に先陣を切らせてください」

志田穂月は味方の軍に敵軍の先陣として乗り込もうとしている。

晴信の勢いを見れば、息子であっても容赦なく討つのではないかと思われたが、穂月もまた、父と戦う覚悟を感じさせた。

「…いいでしょう。私たちは後方を固めます」

両軍が掲げた槍や鉄鎧てつがいが朝日に反射する。

「全軍、進め――――――っ」

晴信率いる志田軍が進撃を開始し、向かい合う羽間軍も前進。両軍ともに谷を下り、ついに決戦の火ぶたが切って落とされた、まさにその時。

ごおおおお、…――――――っ

ひどく強力な風が谷を渡った。

「な、…なんだ、…!?」

兵士たちは軍旗ごと倒れ、軍馬たちも膝を折って異様な風に耐えている。両軍とも前に進めず、ひどい砂嵐に目を開けることもままならない。

「その合戦、いましばらく待たれよ。神の裁きが下ろう」

強風に姿勢を低くし、ようやく薄目を開けることが出来た晴信は、合戦の中心に紫色の袈裟を着た高僧の姿を見た。

「…達磨?」

志田城お抱えの陰陽師でもある達磨法師は、人知を超えた特異な力を持っている。この異常なまでに強い風は達磨が得意とする風術か。

「穂月様を見捨てんとするこの戦い、妖刀・時切丸がひどく騒いでおりまする。このままでは時切丸が晴信様を切り、志田連合軍は全滅、、領地領民は全て羽間のものとなりましょう」

「な、…なに!?」

風にあおられて谷に響き渡る達磨法師の声は、戦に臨む志田連合軍を一気に不安に陥れた。達磨法師には先見の力がある。その力を間近で見てきた晴信には特に衝撃が大きかった。

「穂月様は人質ではなく交渉に臨まれたのです。今、志田に必要なのは勝ち目のない戦で全滅することでなく、羽間の交渉を受け入れることです。さもなくば、志田領は根絶やしになりましょう」

「な、何を言うか、…――――――」

立ち上がれないほどの強風の中、顔を真っ赤にして何とか達磨に抵抗しようとする晴信だったが、勝ち目のない戦であることは晴信自身が一番よく分かっていた。

「お主の風術で敵を抑え込めば、…」
「私の術は時切丸には敵いません」

強風で地面に這いつくばっている志田軍に、敵軍から一騎の兵士が近づいてきた。強風をものともせず、凛々しく馬を駆る兵士の手には、妖刀・時切丸が握られていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】24時の鐘と俺様オオカミ

百崎千鶴
恋愛
(🌸約9年前に書いた作品です)  高校3年生の姫野白雪(ひめのしらゆき)は、感情と言動が一致しないツンデレガールである。  お伽話の世界に憧れているものの現実主義な彼女は、ある時から同級生の大路一樹(おおじいつき)に目をつけられ、少しずつ日常が変化していくのだった――……。  さあ、24時になっても魔法の解けないお伽話を始めましょう。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

処理中です...