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iiyori.09

06.

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「東丸達磨だるまっ、お前の企みは全て白日の下にさらされている。我が父・志田晴信と組んでわれを暗殺しようとした報いを受けよっ!!」

「な、…っ!? ほ、…穂月様っ!? 敵陣に囚われたのでは、…っっ」

東丸達磨は、部下を引き連れて突如三宮寺に現れた志田城主晴信の嫡男・穂月の存在に動揺を隠し切れなかった。

志田城内にある三宮寺は古より伝わる霊験あらたかなお寺で、代々、時の城主に仕えている。陰陽道を説き、修行を積んだ僧侶は悪霊を祓う崇高な霊力を手にし、領主領民の生活を守っていた。

現在、三宮寺最高法師を務める東丸達磨は強力な風を操り、式神を使役する霊力の使い手であるが、先日、城主である志田晴信の命を受け、式神を女中に吹き込んで嫡男穂月の暗殺を謀ったところ、あろうことか女中が蟲毒を盛る相手を間違え、晴信が一時危篤状態に陥るという失態を演じてしまった。

晴信は何とか回復したが、このままでは晴信から不信を買い、穂月からも恨まれ、最悪処刑されるかもしれない。幸い、羽間軍の奇襲があり、暗殺計画はうやむやのままなので、真相を知る行方不明の女中の口を封じ、名誉挽回の機会を得ようと晴信の意向を探っていたのだが、…

まさか。

敵軍に捕らえられているはずの穂月が件の女中を伴って現れるとは、…

「お、…お許し下さい、穂月様。全て晴信殿がご命じになったこと。私は、その命に従ったまで、…っっ」

寺に城主嫡男穂月一行が乗り込んできたとあって、三宮寺は大騒ぎになっていた。志田穂月の非情さは折り紙付きである。もはや寺ごと焼き討ちにあうのでは、皆殺しになるのでは、と恐れ慄き、早々に逃亡を企てる者もいた。

東丸達磨も穂月の冷酷さは承知している。
ともかくも平伏して命乞いをしてみたが、内心、始末をつける機会をうかがっていた。

供は家臣一人と女中二人。
いかに容赦ない時切丸の使い手であろうと、達磨の霊力にかかれば敵わない相手ではない。穂月暗殺は晴信殿の意図するところ。ここで亡き者にすれば、むしろ名誉挽回となるのでは、…

「青龍・白虎・朱雀・玄武・勾陳・帝台、…――――――っ」

先手必勝。
達磨は素早く印を組み、精神を集中させて一気に霊力を高め、強力な風力を穂月めがけて解き放った。

ごおおお、…――――――

三宮寺講堂に不気味な風が吹き荒ぶ。
柱が傾き、屋根が剥がれ、奉納されている神具が四方に飛び散り、割れて壊れる。不安げに見守る弟子たちは強力な風に立っていられなくなり、柱や床にしがみついて身体を固くしているのがやっとだった。

さつっ、…穂月様、御免っっ」

時切丸は接近戦でなければ威力を発揮出来ない。
所詮、最高法師東丸達磨の霊力の敵ではない。

達磨法師は、風の力で縛り付け、動けずにいる穂月に向けて、突風雷剣を作り、一思いに炸裂させた。

「ほ、…法師様、…」
「おお、…」「なんと、…」「すごい、…」

手ごたえはあった。達磨渾身の一撃。
確かに風の剣が穂月の心臓を貫いた。あの剣を受けて生き延びられる人間はいまい。

勝負あったな。

達磨は、無残に崩れ落ちている穂月を想像して目を向け、驚愕に見開いた。

志田穂月は背後に部下を従えたまま、そこに悠然とたたずんでいた。
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