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iiyori.09
04.
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「俺は、父を討つ」
愛し過ぎる穂月の腕の中で、優しいキスに漂って、ただひたすらに幸せで、ぬくぬくして英気を養っていたら、穂月が物騒なことを言いだした。
「羽間の合同軍と志田の連合軍が手を組めば、他に類を見ない一大勢力になる。よそからの侵略に怯えず、領民も穏やかに暮らせよう。だが父は、志田の単独勢力にこだわり、領地領民を犠牲にしても志田の家名を守ろうとするだろう。今、羽間から志田城に使者を送っているが、恐らく父は同盟に同意せず、俺を見捨てて襲撃してくるだろう」
そうだった。ここは敵陣。
いつ何時、戦が始まらないとも限らない。
「そうしたら、俺は父を討たねばならぬ。志田の家督を継いで和平協定に同意し、羽間と同盟を結ぶ」
穂月は私を胸に抱いたまま、長い指先で私の髪を撫でた。
穂月、…
穂月はまだ中学生なのに。
ここにいるたくさんの人の暮らしを思って、それを守ろうとしてるんだ。
そのために自分がつらい選択をすることになっても、決断しなきゃいけないんだ。
穂月の葛藤を思うと胸が痛い。
穂月の強さは、この頃からずっと変わらないけど、…
それでもやっぱりお父さんを討つのはつらいだろう。父も母も手にかけるなんて、そんなのつらすぎる。
晴信を同盟に同意させる方法はないかな。
なんか晴信の弱みを握って強引に同意させるとか、或いは失脚させるとか、…
「…同盟関係が成立したら、家督は閏、…義弟の閏月に譲る。志田の家督を継いだままでは、お前を唯一の妻に出来ないからな。先夜、三姫にもその旨伝えた」
「うん、……えっ!?」
穂月の決意を聞きながら、ことを穏便に済ませる方法はないか考えていたけど、突然話が身近になって思考が吹っ飛んだ。
「先夜って、三姫って、あの、…あの、夜這いの!?」
実はずっと気になっていたことで、つい大声を出してしまって穂月に口を塞がれた。
いや、だからここは敵陣なんだって!
穂月の腕の中で身を固くして耳をそばだてていたけれど、特に見張りの人が近づいてくる気配はなかった。監視カメラとか盗聴器とかない時代で良かった。
「…夜這い? だと、三姫が言ったのか?」
「夜は娼婦の勢いで迫られたんだよね!?」
声を潜めて、だけどどうしても胸がチリチリしてきて語気が荒くなり、無意識に唇を尖らせてしまった。
嫉妬丸出しだけどっ、穂月の立場も理解できるけどっ
それでもやっぱり嫌なもんは嫌なんですっっ!!
至近距離で見つめ合った後、
「ふっ、…」
穂月は私の唇を摘まんで笑った。
「妬いてんのか。お前ホント可愛いな」
笑ったまま穂月が唇にチュッと軽くキスをする。
いやいやいや、…可愛いとかでなくですね!?
と思うのに、穂月にキスされると思考力が溶けて消えてしまう。あの夜の真相がうやむやに、…っっ
「唯一の妻って言ってんのに」
そのまま舌を差し入れられて、その心地よさに、あっという間に溶けて蕩けて、また穂月に溺れてしまった。
いやいや、だから、…
恐るべしは戦国イケメン中学生の威力よ。
愛し過ぎる穂月の腕の中で、優しいキスに漂って、ただひたすらに幸せで、ぬくぬくして英気を養っていたら、穂月が物騒なことを言いだした。
「羽間の合同軍と志田の連合軍が手を組めば、他に類を見ない一大勢力になる。よそからの侵略に怯えず、領民も穏やかに暮らせよう。だが父は、志田の単独勢力にこだわり、領地領民を犠牲にしても志田の家名を守ろうとするだろう。今、羽間から志田城に使者を送っているが、恐らく父は同盟に同意せず、俺を見捨てて襲撃してくるだろう」
そうだった。ここは敵陣。
いつ何時、戦が始まらないとも限らない。
「そうしたら、俺は父を討たねばならぬ。志田の家督を継いで和平協定に同意し、羽間と同盟を結ぶ」
穂月は私を胸に抱いたまま、長い指先で私の髪を撫でた。
穂月、…
穂月はまだ中学生なのに。
ここにいるたくさんの人の暮らしを思って、それを守ろうとしてるんだ。
そのために自分がつらい選択をすることになっても、決断しなきゃいけないんだ。
穂月の葛藤を思うと胸が痛い。
穂月の強さは、この頃からずっと変わらないけど、…
それでもやっぱりお父さんを討つのはつらいだろう。父も母も手にかけるなんて、そんなのつらすぎる。
晴信を同盟に同意させる方法はないかな。
なんか晴信の弱みを握って強引に同意させるとか、或いは失脚させるとか、…
「…同盟関係が成立したら、家督は閏、…義弟の閏月に譲る。志田の家督を継いだままでは、お前を唯一の妻に出来ないからな。先夜、三姫にもその旨伝えた」
「うん、……えっ!?」
穂月の決意を聞きながら、ことを穏便に済ませる方法はないか考えていたけど、突然話が身近になって思考が吹っ飛んだ。
「先夜って、三姫って、あの、…あの、夜這いの!?」
実はずっと気になっていたことで、つい大声を出してしまって穂月に口を塞がれた。
いや、だからここは敵陣なんだって!
穂月の腕の中で身を固くして耳をそばだてていたけれど、特に見張りの人が近づいてくる気配はなかった。監視カメラとか盗聴器とかない時代で良かった。
「…夜這い? だと、三姫が言ったのか?」
「夜は娼婦の勢いで迫られたんだよね!?」
声を潜めて、だけどどうしても胸がチリチリしてきて語気が荒くなり、無意識に唇を尖らせてしまった。
嫉妬丸出しだけどっ、穂月の立場も理解できるけどっ
それでもやっぱり嫌なもんは嫌なんですっっ!!
至近距離で見つめ合った後、
「ふっ、…」
穂月は私の唇を摘まんで笑った。
「妬いてんのか。お前ホント可愛いな」
笑ったまま穂月が唇にチュッと軽くキスをする。
いやいやいや、…可愛いとかでなくですね!?
と思うのに、穂月にキスされると思考力が溶けて消えてしまう。あの夜の真相がうやむやに、…っっ
「唯一の妻って言ってんのに」
そのまま舌を差し入れられて、その心地よさに、あっという間に溶けて蕩けて、また穂月に溺れてしまった。
いやいや、だから、…
恐るべしは戦国イケメン中学生の威力よ。
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