71 / 92
iiyori.08
08.
しおりを挟む
「待って、マキちゃん、鷹朋さん。私、協力を仰ぎたい人がいる」
穂月を置いて自分だけ逃げだすなんてできない。
だから決めた。逃げない。
出来るだけの援護射撃する。待ってて、穂月。
「え、…」
「誰??」
今しも出立の準備にかかろうとしていたマキちゃんと鷹朋さんが怪訝な顔をする。
分かってる。なかなか難しい状況だってことは。
でも、使えるものは何でも使う。穂月が命懸けで挑んでいる和平交渉を晴信に台無しにされてたまるか。
「さんひめ~~~~~~~~~~~っっ」
丹田に気を溜めることを意識して、呼吸に集中した。頭の上から気が発散して高く遠くまで飛んでいくイメージ。思い付きの付け焼刃だけど、私だって曲がりなりにも時を超えてきた霊魂なわけだから、神出鬼没の三姫浮遊霊にコンタクトを取れたっていいと思う。
幸い今夜は月も星もない闇夜。草木も眠る丑三つ時。
魔物が出歩くにはちょうどいい時間帯じゃないの。
「さんひめ~~~~~~~~~~~っっ」
「あの、…なえ、…?」
マキちゃんがこの子いよいよおかしくなったな、という顔でこっちを見ている。鷹朋さんはショックで壊れたか、というような気の毒そうな顔をしている。
でも違います、皆さん。
私は本気です。倉咲菜苗は志田穂月に会いに来た霊魂ですから。
絶対、浮遊霊と交信できるはず――――――っっ
「あの、…なえ、様、…」
念には念を。って使い方違うけど、持てる限りの念力を込めて三姫を呼んだ。けど、全く三姫は現れず、鷹朋さんが私を説得にかかろうと声をかけた。
その時。
「…誰が魔物じゃ。路傍のちんけな石ころの分際で」
部屋の中にぼんやりとした明かりが灯り、徐々に人の形を成していき、あの日の雛人形さながらの煌びやかな三姫が姿を現した。
「え、…」
「ええええ―――――っっ」
もちろん、マキちゃんと鷹朋さんは驚いて目も口もあんぐりと開け、信じられないものを見る表情で固まった。
「やった~、三姫っ! 来てくれてありがとうっっ」
けど、私は喜びのあまり抱き着いた。
そう、このお雛様幽霊は実体なんで、触れるんです。
「気安く触るでない。穂月様の感触が薄れる」
私の歓迎を不快そうに、三姫は犬を追い払うような仕草であっちへ行けと手を振った。高飛車で傲慢な感じ、変わらないな。ていうか、穂月様の感触て、…
「三姫様がこのようなところに何ゆえ、…」
お城のいわゆる奥に籠って生活しているはずの三姫が、自在に抜け出してきたことが鷹朋さんには信じられないらしい。
「こちら、穂月の正室の三姫。幽体離脱ならぬ実体浮遊が出来る特異なお方なんです」
胸の奥がキリキリするけど、それはひとまず見ないふりで、三姫の生態を紹介すると、
「光り輝く宝玉もこれぞという完璧な見た目。由緒正しい家柄の出自。夫の前では物も言えぬ奥ゆかしさ。それなのに漏れ出いづるなまめかしさ。昼は淑女、夜は娼婦。何それ最高じゃん!! が抜けておるぞ」
三姫が不満そうに顎を逸らした。
「…このように、ちょっとお茶目でだいぶ酒豪です」
「な、なるほどー」
マキちゃんと鷹朋さんが受け入れがたい現実を無理やりに受け入れた。
穂月を置いて自分だけ逃げだすなんてできない。
だから決めた。逃げない。
出来るだけの援護射撃する。待ってて、穂月。
「え、…」
「誰??」
今しも出立の準備にかかろうとしていたマキちゃんと鷹朋さんが怪訝な顔をする。
分かってる。なかなか難しい状況だってことは。
でも、使えるものは何でも使う。穂月が命懸けで挑んでいる和平交渉を晴信に台無しにされてたまるか。
「さんひめ~~~~~~~~~~~っっ」
丹田に気を溜めることを意識して、呼吸に集中した。頭の上から気が発散して高く遠くまで飛んでいくイメージ。思い付きの付け焼刃だけど、私だって曲がりなりにも時を超えてきた霊魂なわけだから、神出鬼没の三姫浮遊霊にコンタクトを取れたっていいと思う。
幸い今夜は月も星もない闇夜。草木も眠る丑三つ時。
魔物が出歩くにはちょうどいい時間帯じゃないの。
「さんひめ~~~~~~~~~~~っっ」
「あの、…なえ、…?」
マキちゃんがこの子いよいよおかしくなったな、という顔でこっちを見ている。鷹朋さんはショックで壊れたか、というような気の毒そうな顔をしている。
でも違います、皆さん。
私は本気です。倉咲菜苗は志田穂月に会いに来た霊魂ですから。
絶対、浮遊霊と交信できるはず――――――っっ
「あの、…なえ、様、…」
念には念を。って使い方違うけど、持てる限りの念力を込めて三姫を呼んだ。けど、全く三姫は現れず、鷹朋さんが私を説得にかかろうと声をかけた。
その時。
「…誰が魔物じゃ。路傍のちんけな石ころの分際で」
部屋の中にぼんやりとした明かりが灯り、徐々に人の形を成していき、あの日の雛人形さながらの煌びやかな三姫が姿を現した。
「え、…」
「ええええ―――――っっ」
もちろん、マキちゃんと鷹朋さんは驚いて目も口もあんぐりと開け、信じられないものを見る表情で固まった。
「やった~、三姫っ! 来てくれてありがとうっっ」
けど、私は喜びのあまり抱き着いた。
そう、このお雛様幽霊は実体なんで、触れるんです。
「気安く触るでない。穂月様の感触が薄れる」
私の歓迎を不快そうに、三姫は犬を追い払うような仕草であっちへ行けと手を振った。高飛車で傲慢な感じ、変わらないな。ていうか、穂月様の感触て、…
「三姫様がこのようなところに何ゆえ、…」
お城のいわゆる奥に籠って生活しているはずの三姫が、自在に抜け出してきたことが鷹朋さんには信じられないらしい。
「こちら、穂月の正室の三姫。幽体離脱ならぬ実体浮遊が出来る特異なお方なんです」
胸の奥がキリキリするけど、それはひとまず見ないふりで、三姫の生態を紹介すると、
「光り輝く宝玉もこれぞという完璧な見た目。由緒正しい家柄の出自。夫の前では物も言えぬ奥ゆかしさ。それなのに漏れ出いづるなまめかしさ。昼は淑女、夜は娼婦。何それ最高じゃん!! が抜けておるぞ」
三姫が不満そうに顎を逸らした。
「…このように、ちょっとお茶目でだいぶ酒豪です」
「な、なるほどー」
マキちゃんと鷹朋さんが受け入れがたい現実を無理やりに受け入れた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説


忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる