戦国男子高校生に言い寄られてます!?【完結】

remo

文字の大きさ
上 下
62 / 92
iiyori.07

08.

しおりを挟む
「つまりっ、穂月様は妾の素晴らしさを少しも分こうてくれぬということよ」

三姫が手酌で満たした杯をあおって鼻息を荒くする。

煙のように消えた三姫は、約束通り(?)、酒樽を片手に戻ってきて、私の前にどっかり腰を落ち着けるとグイグイ飲み始めた。可愛い見た目に反して、結構な酒豪らしい。

「光り輝く宝玉もこれぞという完璧な見た目。由緒正しい家柄の出自。夫の前では物も言えぬ奥ゆかしさ。それなのに漏れいづるなまめかしさ。昼は淑女、夜は娼婦。なにそれ、最高じゃんってことですよねっ???」

相変わらず後ろ手に縛られて轡を嚙まされたまま、ろくに動けない私の肩をつかんで、グラグラ揺さぶってくる。

「って、聞いてる? ちゃんと聞いてる? どうじゃ、石ころ? しかと返事せいっ」

わ――、面倒くさいタイプの絡み酒だよ、これ。

「ほーへふへ」
「声が小さ―――――いっ!!」

だからしゃべれないんだって。

グチグチ絡みながら語る三姫の言うところによると、無敵の妖刀遣いと名高い穂月に嫁ぐのはちょっと怖くもあったけれど、そのやんごとなく麗しいご尊顔に秒で虜になってしまい、己の幸運に深く歓喜した。

が、夫となったはずの穂月はたったの一度もお渡りにならず、三姫に興味ゼロどころか、側室を2人も招く始末。穂月様ほどの武将ですもの、側室くらい、と己を慰め、自分には遠く及ばないけどまあそれなりに美貌の側室たちを受け入れてみたものの、穂月は側室にも興味なし。

どういうこっちゃ、付くもの付いてるんか―――い、と嘆きに嘆き、穂月恋しさに泣き暮らしているうちに、所謂いわゆる在処離あくがれ』状態になり、魂と肉体が分かれて遊離するようになったという。

浮遊した魂で穂月に付きまとっているうちに、いつしか実体ごと移り歩いたり、誰かをかたどって姿を変えたりすることも出来るようになった、…まさに変幻自在の浮遊霊に進化した。

「霊じゃないと申しておろうにっ」

すっかり出来上がった三姫に頭をはたかれた。
確かに痛い。間違いなく実体だ。

で。変幻自在、神出鬼没の三姫は、私の姿になりすまし、達磨法師の式神となって穂月と晴信に蟲毒こどくを盛った、ってこと?

「達磨は晴信と結託して穂月様を暗殺しようとしておったがの。穂月様をお辛い目に遭わせるなど言語道断。この三姫が許しはせぬ。にっくきは晴信じゃ。己の企みで自滅すれば良いのじゃ」

ふん、っとまたしてもお酒をあおって言い捨てた。なんか晴信がすごく嫌いらしい。まあ確かに酷い父親であるとは思う。

なるほど。
三姫のおかげでだいぶ状況が整理できた。

つまり。
晴信は実の子であり志田家嫡男でもある穂月を暗殺しようと、幻術遣いの達磨法師を呼んで、雇われて日の浅い女中を実行役に選んで式神にしたところ、それは実は私に成りすました三姫で、穂月じゃなく晴信に毒を盛って、その容疑で私が逮捕された、…てことか。

「穂月様のお心を惑わせるちんけな石ころは処刑され、その隙に妾はおぬしの姿で穂月様を夜這よばう。完璧じゃ。ついにあの穂月様の全てが妾のもの。ああん、いやああん、待ってて。マイスイートダーリン~~~」

一方的に言いたいことだけぶちまけて、強烈にお酒の匂いを放ちながら、またしても煙のように三姫が消えた。

なんつー自分勝手な幽霊、…

「実体じゃ!!」

…そうでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

処理中です...