54 / 92
iiyori.06
09.
しおりを挟む
穂月のキスが好き。
余計なものが全て溶け落ちて、穂月だけでいっぱいになる。
私を探る手のひらの温度。絡め合わされた舌先の強さ。切羽詰まったように交わされる吐息。絶え間なく注がれる甘い唇。
ずっと覚えてる。何があっても忘れない。
全身の細胞に刻み込んで。全力で抱きしめる。
穂月が好き。
もしも。
時空を超えて、心も身体もバラバラになって、散り散りになって。
穂月と離れ離れになっても、きっと。
また。絶対穂月を好きになる。
いつ、どこで、どんな風に出会っても。
絶対穂月を好きになる。
どうか。
永遠に消えない穂月の痕を付けて欲しい。
「なえ、…」
穂月が私の眼元に唇を寄せた。
いつの間にか泣いていたらしい。
「どうした?」
穂月の声が涙を震わせる。
何て言ったらいいんだろう。
なんでか分からないけど。
思いが溢れて道しるべを見失ってしまった。
穂月が好きで。穂月に会えて幸せで。
だけど、これから、私はどうしたらいいんだろう。
穂月を連れて、現代に帰れるだろうか。
本当にそれでいいんだろうか。
「なにが怖い?」
時切丸で切られたら時空を超えられるとしても。
元いたところに戻れるという保証はない。
私だけが戻ることになるかもしれないし。永遠に霊魂が暗闇を彷徨うことになるかもしれない。私が今ここにいるのは神様が起こした気まぐれな奇跡なのかもしれなくて、…
「穂月が好きで、…」
もしかしたら、無理に帰ろうとするんじゃなくて、このままここに居た方がいいのかもしれない。マキちゃんも鷹朋さんもいるし、慣れれば女中仕事ももうちょっと出来るようになるだろうし。ささがきだって完璧に出来るようになってみせるし。
「…どうしたらいいか分からない」
…でも。
ここは戦国。
ここに居たら穂月は時切丸を使って人を殺め続けなきゃいけない。
戦乱の世だから、武将として生まれてしまったから、敵兵はもちろん、肉親だって忠臣だって、…
もう穂月に誰も殺して欲しくない。
でもそれは私のエゴかもしれない。
「…お前、羽間の間者だろう?」
途方に暮れていたら、穂月の優しい指先が涙をぬぐった。
カンジャ、…??
予想外過ぎて、とっさに語彙変換が出来ない。
かんじゃ。患者。間者。…間者って、スパイのこと?
で、羽間ってのは多分、穂月の敵対勢力だ。
「…お前、時々俺の時切丸を探しているよな?」
…気づかれてた!!
いや、だって。
時切丸で切られたらまた時空を超えられるかなって、そりゃあ気になりますよ。
「坊主とこそこそ蔵を探っていたな?」
…それもバレてた!!
どこで見てたんだろう。穂月の観察眼が鋭すぎる。いや、雪だるまがビック過ぎるのか。ていうか、私、なんか忘れてる、…
「それでもいい」
涙をぬぐった指先の後に穂月の唇が触れる。
その唇が優し過ぎて、凝り固まった思考がほどけた。
「俺が好きならここにいろ」
再び穂月の唇が重ねられて、思考も不安も全て飲み込まれた。
長い指が。温かい手のひらが。優しい唇が。甘い舌が。交わる吐息が。
穂月と繋がる全てが愛しい。
穂月が好き。
それだけでいい。
余計なものが全て溶け落ちて、穂月だけでいっぱいになる。
私を探る手のひらの温度。絡め合わされた舌先の強さ。切羽詰まったように交わされる吐息。絶え間なく注がれる甘い唇。
ずっと覚えてる。何があっても忘れない。
全身の細胞に刻み込んで。全力で抱きしめる。
穂月が好き。
もしも。
時空を超えて、心も身体もバラバラになって、散り散りになって。
穂月と離れ離れになっても、きっと。
また。絶対穂月を好きになる。
いつ、どこで、どんな風に出会っても。
絶対穂月を好きになる。
どうか。
永遠に消えない穂月の痕を付けて欲しい。
「なえ、…」
穂月が私の眼元に唇を寄せた。
いつの間にか泣いていたらしい。
「どうした?」
穂月の声が涙を震わせる。
何て言ったらいいんだろう。
なんでか分からないけど。
思いが溢れて道しるべを見失ってしまった。
穂月が好きで。穂月に会えて幸せで。
だけど、これから、私はどうしたらいいんだろう。
穂月を連れて、現代に帰れるだろうか。
本当にそれでいいんだろうか。
「なにが怖い?」
時切丸で切られたら時空を超えられるとしても。
元いたところに戻れるという保証はない。
私だけが戻ることになるかもしれないし。永遠に霊魂が暗闇を彷徨うことになるかもしれない。私が今ここにいるのは神様が起こした気まぐれな奇跡なのかもしれなくて、…
「穂月が好きで、…」
もしかしたら、無理に帰ろうとするんじゃなくて、このままここに居た方がいいのかもしれない。マキちゃんも鷹朋さんもいるし、慣れれば女中仕事ももうちょっと出来るようになるだろうし。ささがきだって完璧に出来るようになってみせるし。
「…どうしたらいいか分からない」
…でも。
ここは戦国。
ここに居たら穂月は時切丸を使って人を殺め続けなきゃいけない。
戦乱の世だから、武将として生まれてしまったから、敵兵はもちろん、肉親だって忠臣だって、…
もう穂月に誰も殺して欲しくない。
でもそれは私のエゴかもしれない。
「…お前、羽間の間者だろう?」
途方に暮れていたら、穂月の優しい指先が涙をぬぐった。
カンジャ、…??
予想外過ぎて、とっさに語彙変換が出来ない。
かんじゃ。患者。間者。…間者って、スパイのこと?
で、羽間ってのは多分、穂月の敵対勢力だ。
「…お前、時々俺の時切丸を探しているよな?」
…気づかれてた!!
いや、だって。
時切丸で切られたらまた時空を超えられるかなって、そりゃあ気になりますよ。
「坊主とこそこそ蔵を探っていたな?」
…それもバレてた!!
どこで見てたんだろう。穂月の観察眼が鋭すぎる。いや、雪だるまがビック過ぎるのか。ていうか、私、なんか忘れてる、…
「それでもいい」
涙をぬぐった指先の後に穂月の唇が触れる。
その唇が優し過ぎて、凝り固まった思考がほどけた。
「俺が好きならここにいろ」
再び穂月の唇が重ねられて、思考も不安も全て飲み込まれた。
長い指が。温かい手のひらが。優しい唇が。甘い舌が。交わる吐息が。
穂月と繋がる全てが愛しい。
穂月が好き。
それだけでいい。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説


忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる