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iiyori.06

08.

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「……、なえ?」

穂月の声が好き。穂月の匂いが好き。
穂月の温もりも。私に触れるしなやかな身体も。
優しい手のひらも。甘い唇も。柔靭じゅうじんな長い手足も。

「ん、…き、…?」

穂月の全てが好きだけど、…

「…、むい」

眠すぎた。

戦国時代、お城勤めの女中さんの体力を舐めていた。
ともかくも、体力。一二もなく、体力。
だって、休憩時間が全然ない。次から次へと仕事が降ってきて、ずっと立ち働いている。ずっと肉体労働。めっちゃ朝早くから、寝るのも遅い。8時間労働制度どこ行った?? 45分休憩カムバック―――っな感じで、ヘロヘロで、ようやく部屋に下がったところで、

「…なえ。鷹朋様がお呼びよ」

遠い親戚設定の鷹朋さんから呼び出され、こっそり女中部屋を抜けて、

「若君が戻られるまでここでお待ちになってください」

って穂月の部屋まで連れて来られたんだけど。
そこに布団があったら寝てしまう。柔らかいお布団。穂月の匂い。気持ちいい。疲れた。脚がむくむ…

…で、完全に寝落ち。

気づいたらいつの間にか穂月の温もりが近くて、柔らかく包まれていて、滑らかな肌に擦り寄ったりしていて、目を上げたら、穂月の美しい顔がそこにあって、伏せられた長いまつ毛が時々揺れるのが見えて、たまらなく胸をつかまれた。

無防備な寝顔ってどうしてこんなに愛しいんだろう。

穂月の綺麗な頬のカーブにそっと指を触れると、

「…起きたか」

その手を取られ、そこに唇が寄せられたと思ったら、そのまま体勢が反転した。

うわ、なんか。
穂月が片腕で私の頭の後ろを支えたまま、真上から見下ろしていて、すごく近くてすごく密着していて、なんかこの体勢は、つまりなんか、…

至極親密な体勢に心臓のボルテージが跳ね上がり、一気に目覚めた。

けど、

「どこか痛むか?」

穂月は澄んだ瞳でじっと私を見つめてから、手のひらでそっと額に触れた。具合を確認するみたいに、そのままそっと頭を撫でて、頬を撫でる。それが凄く優しくて、いたわりに満ちていて、じんとした温かさが沁み渡る。

心配してくれてるんだ。
私が女中仕事に慣れてなくて疲れてるから。

なんだかすごく胸がいっぱいになって、下から穂月にしがみついた。

「…大好き」

この気持ちをなんて言ったらいいか分からない。
ありがとうよりも近いけど。それじゃまだ全然足りない。
穂月を思う気持ちは言葉に出来ない。

「ホントお前、…」

穂月は私をぎゅっと強く抱きしめてから、優しく髪を撫でて額にキスした。

「…よく休め」

穂月の指と唇が触れたところから、無敵のエナジーが流れ込んで私を巡る。身体を巡るこの温かな思いは、多分幸せというもので、この思いのためなら、人は何でも出来るんだと思う。

「…おい」

穂月が私を布団に降ろそうとするから、離れたくなくて一層強くしがみついた。

「やだ、…」

なんていうか、離れがたい。穂月の体温を一番近くに感じていたい。もっとたくさん、穂月を感じたい。

「お前、…俺の我慢をなんだと思ってるんだ」

ちょっと困ったような怒ったような穂月が、私を抱きしめたまま、唇に唇を重ねた。軽くついばむようなキスがくすぐったくて、笑った唇の隙間から、穂月の甘い舌が差し込まれた。
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