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iiyori.05
07.
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思いついた途端、冷や汗が流れた。
時切丸は時空を切断するとか言ってなかった?
穂月が戦国時代でなえを刺してしまって、気づいたら現代にいたとか言ってなかったか??
てことは、もしかして。
時切丸に刺された私は逆に過去に飛ばされた、…みたいな?
戦国時代にやってきちゃった、みたいな????
「…阿呆」
信じられない可能性に思い至り、顔面蒼白になる私の額を穂月が小突いた。
「子どもはお前だろ」
それが少し悪戯めいていて、なんだか面白そうで、その表情を見たら、やっぱりこの人は穂月なんだと思った。
この時の穂月は私のことを知らない、まだ年若くてなんだか冷酷な空気をまとっているけど、でも間違いない。
『もう俺のこと好きになった?』
私が生まれて初めて好きになって、どうしてもどうしても大好きな、強くて優しい穂月だ。
「いやあ~~、私も意外と若く見えるねってよく言われるんだけど、こう見えてもうアラサ、…」
待てよ。
ここが過去で、戦国時代で、霊魂だけ飛ばされてきちゃったとしたら、私は真面目なだけが取り柄の高校教師、倉咲菜苗、29歳、じゃないのか? ていうか、意外と若く見えるって思ったより年取ってるってこと?? いや、そんなことは今はいい。
穂月が穂月であることに安心して普通に答えようとしたけど、若返ったようだったり、身体が軽かったり、ひ弱だったりしたのは気のせいじゃなくて、もしかして私、容姿は別人になっているのか??
「…私、いくつ?」
「知るか」
真面目に聞いたのに、呆れたような顔をした穂月に頬を摘ままれた。
「ほふひは、いふふ(穂月は、いくつ)?」
摘まんだ私の頬をびよ~んと面白そうに横に伸ばして、
「…14。お前、俺が怖くないのか?」
穂月が私を覗き込んだ。
澄んだ綺麗な瞳が真っすぐに私を射る。
その中には、深い悲しみが滲んでいた。
そうか。穂月は、ずっと悲しかったんだ。
悪霊に呪われ、相手が誰であっても容赦なく切り捨てるという妖刀に選ばれて、人を殺めた。時代が時代とはいえ、たかだか13,4歳で戦の先陣を切り、無敵の武将と謳われるほどに敵軍を切り捨て、その非情さを家臣にも恐れられている。そんなの、平気なはずがない。穂月が悲しくないわけない。
『なえを切ることは出来ぬ』
震えながら抱きしめてくれた穂月の手を思い出した。
『…全然。アイツ全部、寸止めだもん』
学校の屋上で鷹峰くんに絡まれて果たし合いをした時、ほんの少しも相手を傷つけなかった穂月を思い出した。
「怖くないよ」
穂月の両手をそっと包んだ。
「この先、何をしても、何があっても、穂月のことは怖くない」
もう誰のことも切らなくていいように、穂月は現代に渡ったのかもしれない。そうならいい、と思った。
時切丸は時空を切断するとか言ってなかった?
穂月が戦国時代でなえを刺してしまって、気づいたら現代にいたとか言ってなかったか??
てことは、もしかして。
時切丸に刺された私は逆に過去に飛ばされた、…みたいな?
戦国時代にやってきちゃった、みたいな????
「…阿呆」
信じられない可能性に思い至り、顔面蒼白になる私の額を穂月が小突いた。
「子どもはお前だろ」
それが少し悪戯めいていて、なんだか面白そうで、その表情を見たら、やっぱりこの人は穂月なんだと思った。
この時の穂月は私のことを知らない、まだ年若くてなんだか冷酷な空気をまとっているけど、でも間違いない。
『もう俺のこと好きになった?』
私が生まれて初めて好きになって、どうしてもどうしても大好きな、強くて優しい穂月だ。
「いやあ~~、私も意外と若く見えるねってよく言われるんだけど、こう見えてもうアラサ、…」
待てよ。
ここが過去で、戦国時代で、霊魂だけ飛ばされてきちゃったとしたら、私は真面目なだけが取り柄の高校教師、倉咲菜苗、29歳、じゃないのか? ていうか、意外と若く見えるって思ったより年取ってるってこと?? いや、そんなことは今はいい。
穂月が穂月であることに安心して普通に答えようとしたけど、若返ったようだったり、身体が軽かったり、ひ弱だったりしたのは気のせいじゃなくて、もしかして私、容姿は別人になっているのか??
「…私、いくつ?」
「知るか」
真面目に聞いたのに、呆れたような顔をした穂月に頬を摘ままれた。
「ほふひは、いふふ(穂月は、いくつ)?」
摘まんだ私の頬をびよ~んと面白そうに横に伸ばして、
「…14。お前、俺が怖くないのか?」
穂月が私を覗き込んだ。
澄んだ綺麗な瞳が真っすぐに私を射る。
その中には、深い悲しみが滲んでいた。
そうか。穂月は、ずっと悲しかったんだ。
悪霊に呪われ、相手が誰であっても容赦なく切り捨てるという妖刀に選ばれて、人を殺めた。時代が時代とはいえ、たかだか13,4歳で戦の先陣を切り、無敵の武将と謳われるほどに敵軍を切り捨て、その非情さを家臣にも恐れられている。そんなの、平気なはずがない。穂月が悲しくないわけない。
『なえを切ることは出来ぬ』
震えながら抱きしめてくれた穂月の手を思い出した。
『…全然。アイツ全部、寸止めだもん』
学校の屋上で鷹峰くんに絡まれて果たし合いをした時、ほんの少しも相手を傷つけなかった穂月を思い出した。
「怖くないよ」
穂月の両手をそっと包んだ。
「この先、何をしても、何があっても、穂月のことは怖くない」
もう誰のことも切らなくていいように、穂月は現代に渡ったのかもしれない。そうならいい、と思った。
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