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iiyori.05
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「そ、…そうだよね~?? 私、こう見えて切られたら血が出るタイプだからさ、出来たらこう、痛くない感じでお願いしたい、みたいなさ~??」
急に保身に走って鷹峰くんの提案に乗っかる私を、
「なえを切ることは出来ぬ」
穂月が後ろから抱きしめた。
「例え無事であるとしても、あのような思いは二度と出来ぬ」
穂月の手が少し震えている。
穂月がどんな思いで現代に来たのかが察せられて胸が痛い。穂月の手にそっと自分の手を重ねた。
「そ、…そんなの、ズルいよ。私がなえだよ? 戦国で穂月様の寵愛を受けて、命を懸けて穂月様をここに逃がしたの、私なんだよ!? 私が穂月様のなえなのに、…っっ!!」
三宮さんが泣き崩れた。
えええ―――、…どうしよう。
三宮さんを泣かせている張本人の穂月はしれっと私を抱きしめたまま、私は一人脳内でおろおろし、
「まあ、…穂月は風変わりって言うかさ」「趣味が珍妙っていうかさ」
「およそ分かり合えないって言うか」「0.001%くらいの確立でたまにいる特殊嗜好みたいな?」
マキちゃんと坂下さんが三宮さんを慰めている。
そうなの、私は風変わりな特殊嗜好に好かれる珍獣なの。
って誰がじゃ!!
「なえちゃんはスルメ女なんだよ。まあ俺の特権だと思ってたんだけど」
そうなの。私ちょっとイカ臭いの。
って黙ってもらえる??
などと醜くうろたえていたら、ふっと泣き止んだ三宮さんがゆらりと立ち上がった。
「…相分かり申しました。穂月様に愛してもらえない生など無意味なもの」
ゆらゆらと頼りなく歩きながら、三宮さんは私と穂月のすぐ目の前までやってくると、
「穂月様。どうぞ、後生ですから、私に時切丸をお貸しください」
透き通るように白くか細くいたいけな腕を差し出した。
「あああ、あのね、三宮さん、ちょっと一回落ち着いて、…」
さっきまで自分だけ助かろうとしていたことなど棚に上げ、物騒な展開を回避しようとしてみるも、
「時切丸はいわく付きの刀ゆえ、予期せぬ事態が生じることも、…」
穂月がブレザーの内側に隠し持っているらしい時切丸を確かめるように服の上から触れると、三宮さんがこの世のものとは思えない早業で、穂月につかみかかり、時切丸を奪い取った。それはまさに鬼人の技で、
「え、…!?」
何が起きたのか、よく分からない。
「殺っ!!」
鬼より般若より空恐ろしい顔をして、悪魔に魅入られたかのような三宮さんが時切丸を穂月に向けて突っ込んだ。
「なえっ!!」
覚えているのは狂気に満ちた美少女の変容した恐ろしすぎる表情と、私を呼ぶ穂月の声だけで、
咄嗟に飛び出したらしい自分の胸に、深々と突き刺さっている短刀を見ても、何の現実味もなかった。
急に保身に走って鷹峰くんの提案に乗っかる私を、
「なえを切ることは出来ぬ」
穂月が後ろから抱きしめた。
「例え無事であるとしても、あのような思いは二度と出来ぬ」
穂月の手が少し震えている。
穂月がどんな思いで現代に来たのかが察せられて胸が痛い。穂月の手にそっと自分の手を重ねた。
「そ、…そんなの、ズルいよ。私がなえだよ? 戦国で穂月様の寵愛を受けて、命を懸けて穂月様をここに逃がしたの、私なんだよ!? 私が穂月様のなえなのに、…っっ!!」
三宮さんが泣き崩れた。
えええ―――、…どうしよう。
三宮さんを泣かせている張本人の穂月はしれっと私を抱きしめたまま、私は一人脳内でおろおろし、
「まあ、…穂月は風変わりって言うかさ」「趣味が珍妙っていうかさ」
「およそ分かり合えないって言うか」「0.001%くらいの確立でたまにいる特殊嗜好みたいな?」
マキちゃんと坂下さんが三宮さんを慰めている。
そうなの、私は風変わりな特殊嗜好に好かれる珍獣なの。
って誰がじゃ!!
「なえちゃんはスルメ女なんだよ。まあ俺の特権だと思ってたんだけど」
そうなの。私ちょっとイカ臭いの。
って黙ってもらえる??
などと醜くうろたえていたら、ふっと泣き止んだ三宮さんがゆらりと立ち上がった。
「…相分かり申しました。穂月様に愛してもらえない生など無意味なもの」
ゆらゆらと頼りなく歩きながら、三宮さんは私と穂月のすぐ目の前までやってくると、
「穂月様。どうぞ、後生ですから、私に時切丸をお貸しください」
透き通るように白くか細くいたいけな腕を差し出した。
「あああ、あのね、三宮さん、ちょっと一回落ち着いて、…」
さっきまで自分だけ助かろうとしていたことなど棚に上げ、物騒な展開を回避しようとしてみるも、
「時切丸はいわく付きの刀ゆえ、予期せぬ事態が生じることも、…」
穂月がブレザーの内側に隠し持っているらしい時切丸を確かめるように服の上から触れると、三宮さんがこの世のものとは思えない早業で、穂月につかみかかり、時切丸を奪い取った。それはまさに鬼人の技で、
「え、…!?」
何が起きたのか、よく分からない。
「殺っ!!」
鬼より般若より空恐ろしい顔をして、悪魔に魅入られたかのような三宮さんが時切丸を穂月に向けて突っ込んだ。
「なえっ!!」
覚えているのは狂気に満ちた美少女の変容した恐ろしすぎる表情と、私を呼ぶ穂月の声だけで、
咄嗟に飛び出したらしい自分の胸に、深々と突き刺さっている短刀を見ても、何の現実味もなかった。
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