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iiyori.05

02.

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「相分かり申しました」

絶世の美少女からは想像出来ないような暗くおどろおどろしい声が聞こえて、こわごわ見ると、三宮さんがつぶらな瞳からハラハラと涙を流しながら、絶妙に人のセリフをパクっていた。

「私が穂月様のなえであると証明して差し上げます」

キリっと、いや、ギリギリと鋭い視線で睨めあげられる。全身に悪寒が走った。美人が怒ると怖い。一億の涙を流させた代償は重い。

「穂月様、懐にしまっておられる時切丸で私を切ってご覧になって。私は死にませんっっ」

えええ――――――、…

穂月に引き留められて、バックハグなどたまわったりして、密かに調子に乗っていた私をピシャリと打ちのめす、ご提案。

穂月のためなら命もす、みたいな?

「いや、でも、それはちょっと、…ねえ??」

愛想笑いも顔が引き攣る。
三宮さんは涙をたたえたままじっとこっちを見つめて動かないし、保健室の面々も言葉を失っているようなので、一人でへらへらしゃべることになる。

「いやいや、やめようよ? 落ち着こう? そういう笑えない本物感出してくるの、どうかと思うよ? そんな簡単に命を賭けるべきじゃ、…」

あい分かった」

「穂月!?」

ぎょっとして振り向く。
なんとか穏便に事を済まそうとする私を押し退けて、まさかの穂月が承知した。

それが多分、かんに障ったんだろう。

「でも穂月様っ! 穂月様がそのお方をなえだと仰るなら、そのお方もお切りになって!! そのお方が生きながらえたなら、私も承知して身を引きますわっ!!」

三宮さんが心底美しい顔を涙で歪ませ、鬼人もびっくりの般若顔になった。

怒ってる。ものすごく怒ってらっしゃる。

でもまあ、そりゃあそうだよね。
これでもかっていうくらい『なえ』である証拠を出してるのに、当の穂月が認めないんだもん。悔しいし悲しいよね、…

「相分かりました。そこまで仰るならお引き受け申す」
「ちょっと待て、真木 鈴華まき すずかっっ!!」

などと、三宮さんに同情している場合ではなかった。

「なに勝手に引き受けちゃってるわけ!?」
「え? ちょっと一回、相分かったっての、やってみたかったんだもん」
っっっっる!!」

てへっと舌を出すイカれた養護教諭っ、他人事だと思ってちょっと面白がってるよね!?

「まあ、見た目から年齢から、過去の記憶も刀を通した呼び合いも、何もかもにおいて何一つ勝ち目のないなえちゃんセンセ―を、それでも穂月が選ぶって言うんだから、それなりに真実なのかもしれないよね」

坂下さん、…

ねえそれ。褒めてるの!? ディスってるの??

「こっちの美少女なえちゃんは自信があるみたいだから、最初にサクッとやってもらってさ。で、無事ならそれでいいんじゃね?」

動揺を隠し切れない私を置いて、鷹峰くんが簡潔にまとめだした。

あ。でもまあ、確かにそれなら、私は切られなくて済むってことか??
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