35 / 92
iiyori.04
08.
しおりを挟む
時切丸は、一言でいえば、容赦のない刀であった。
主のためとなれば、誰であろうと切り捨てた。
敵陣はもとより、味方であるはずの兵士も、武具を持たぬ農民も、女子どもも、肉親も、恋人も、…
時切丸の力に翻弄され、最終的に自らを切り捨てた武将もいたという。主をも滅ぼす時切丸は呪われた刀とも恐れられ、詳しい作刀過程も不明であった。
時切丸のもう一つの特殊性は、その刀身が伸縮自在なことにあった。懐刀として身に着けることも、距離のある相手に振るう大太刀として担ぐことも出来、一刀で何役もこなすことが出来た。
その特殊で容赦なき刀を扱える人間は慎重に選ばれ、一時期封印されていたこともあったが、穂月が誕生した時、蔵の奥から自らを解き放ち、桐箱を開けて鞘から刀身を抜いてみせた。時切丸自身が、穂月を主に選んだのである。
時切丸を携えた穂月は無敵だった。
多勢に無勢の負け戦でも、穂月の周りだけは優勢であった。圏内最強の武将と名を馳せた穂月は、ある戦の陣営でなえと名乗る少女と出会う。
一目で恋に落ちた穂月となえは恋仲になるが、歩き巫女であるなえは確かな身分がなく、由緒正しい志田家嫡男である穂月の結婚相手としては到底認められず、屋敷に迎え入れることも許されなかった。
穂月には同盟を結ぶために送られた政略結婚相手である正室も側室もいたが、一向に通わず、里に置いたなえだけを寵愛し、秘かに子も成していた。
それを知った穂月の父親で、志田家当主である志田晴信は激怒し、穂月となえの子である卯月を盾に、豪傑として知られる敵国武将の元になえを送り込んだ。女中として敵国に潜入したなえは、当主の寝首を掻くという密命を果たすため、当主に気に入られ、寝室に入らなければならなかった。
なえと卯月の不在を知り、父親の所業と策略を突き止めた穂月は、なえを奪還するため、卯月を連れて単身敵国に乗り込む。
敵国当主が、なえを手籠めにしようとした寸前、忍び込んだ穂月は時切丸で当主を討つが、異変に気付いた敵将に囲まれて退路を断たれてしまう。
穂月の単独行動を知った志田晴信は、穂月を救出するため自軍を率いて敵国に攻め入り、敵城に火を放つ。
燃え盛る業火に紛れ、自身を囮としてなえと卯月を逃がし、自決しようとした穂月だが、なえは穂月に卯月を託すと、時切丸の切っ先に自ら飛び込み、穂月に懇願した。
「生きて」と。
未来で待っている。というなえの言葉通り、気づいたら穂月は卯月と共に、現代のなえの自宅前にいた、…――――――
主のためとなれば、誰であろうと切り捨てた。
敵陣はもとより、味方であるはずの兵士も、武具を持たぬ農民も、女子どもも、肉親も、恋人も、…
時切丸の力に翻弄され、最終的に自らを切り捨てた武将もいたという。主をも滅ぼす時切丸は呪われた刀とも恐れられ、詳しい作刀過程も不明であった。
時切丸のもう一つの特殊性は、その刀身が伸縮自在なことにあった。懐刀として身に着けることも、距離のある相手に振るう大太刀として担ぐことも出来、一刀で何役もこなすことが出来た。
その特殊で容赦なき刀を扱える人間は慎重に選ばれ、一時期封印されていたこともあったが、穂月が誕生した時、蔵の奥から自らを解き放ち、桐箱を開けて鞘から刀身を抜いてみせた。時切丸自身が、穂月を主に選んだのである。
時切丸を携えた穂月は無敵だった。
多勢に無勢の負け戦でも、穂月の周りだけは優勢であった。圏内最強の武将と名を馳せた穂月は、ある戦の陣営でなえと名乗る少女と出会う。
一目で恋に落ちた穂月となえは恋仲になるが、歩き巫女であるなえは確かな身分がなく、由緒正しい志田家嫡男である穂月の結婚相手としては到底認められず、屋敷に迎え入れることも許されなかった。
穂月には同盟を結ぶために送られた政略結婚相手である正室も側室もいたが、一向に通わず、里に置いたなえだけを寵愛し、秘かに子も成していた。
それを知った穂月の父親で、志田家当主である志田晴信は激怒し、穂月となえの子である卯月を盾に、豪傑として知られる敵国武将の元になえを送り込んだ。女中として敵国に潜入したなえは、当主の寝首を掻くという密命を果たすため、当主に気に入られ、寝室に入らなければならなかった。
なえと卯月の不在を知り、父親の所業と策略を突き止めた穂月は、なえを奪還するため、卯月を連れて単身敵国に乗り込む。
敵国当主が、なえを手籠めにしようとした寸前、忍び込んだ穂月は時切丸で当主を討つが、異変に気付いた敵将に囲まれて退路を断たれてしまう。
穂月の単独行動を知った志田晴信は、穂月を救出するため自軍を率いて敵国に攻め入り、敵城に火を放つ。
燃え盛る業火に紛れ、自身を囮としてなえと卯月を逃がし、自決しようとした穂月だが、なえは穂月に卯月を託すと、時切丸の切っ先に自ら飛び込み、穂月に懇願した。
「生きて」と。
未来で待っている。というなえの言葉通り、気づいたら穂月は卯月と共に、現代のなえの自宅前にいた、…――――――
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説


忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる