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iiyori.04
07.
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「…なえ」
穂月の長い腕が大切な宝物を抱えるみたいに、ぎゅっと私を抱きしめる。
今朝、目が覚めるまで一緒にいた穂月の腕の中。変わってない。誰よりもそばにいて、1番深いところで溶け合った。他の誰も届けない、穂月だけ。
その腕の中にいたら、穂月が心変わりしたとか、遊びだったとか、ちんけな年増がダメだったとか、そんなんじゃなくて、何かどうしようもない事態に陥ったんだろうと分かった。
分かったけど、それを受け入れられるかというと、それはまた別の話で、一向にぐずぐず涙が止まらない。出来る女はこういう時、何も聞かずに身を引くんだろう。逃げたり隠れたりすがったりしないで、潔く別れを受け入れるんだろう。
でも、…
でもさあ?
初めて二人で迎えた朝に、絶世の美少女を連れて現れるって、さすがにどういう了見よ??
「すまぬ、…どういうことか、俺にもよく分からぬ」
泣いている私を優しく撫でながら、なんだか穂月自身も途方に暮れているようだった。
「…ええっと、それで。その制服、桜百合学園のよね? あなたはそこの生徒さん?」
カーテンの向こうで、お茶を淹れてあげたらしいマキちゃんが、渦中の美少女に話しかけている。
「はい。一年の、三宮なえと申します」
鈴を転がすような可愛らしい声が答えた。
三宮、…
「…なえっ!?」
ガバっと顔を上げたら、暗い表情の穂月と目があった。
「彼女は、俺を待っていたという。戦国の世で共に過ごし、時を超えてここに辿り着いた、…俺の『なえ』だ、と」
穂月が重い声音で話すと、衝撃で声が出ない私の代わりに、
「えええええ~~~~~~っ!?」
「はああああ~~~~~~っ??」
坂下さんと鷹峰くんの絶叫が上がり、
「ナナエ、あんた、偽物だったんかい、…っっ」
またしても的確なマキちゃんの突っ込みが入った。
三宮なえさんの声は聞こえないけど、無言の肯定、ということだろう。
そう、つまり。
穂月が全てを投げうってでも共に生きたいと心に決めた相手は、私じゃなかった、…ってことだ。
そんな、…
そんなあああ、…
今更、人違いでしたとか、
神様、そんなのありですか、…――――――???
「俺の身に起きたことを全て話す。俺にも未だよく分からぬが、聞いて欲しい」
愕然と理解が追い付かない私を抱きしめたまま、穂月が静かに話し始めた。
「今朝方、夜明け前。時切丸に呼ばれて目が覚めた、…」
時切丸というのは、穂月がここに来た最初に携えていた刀のことらしい。
戦国の雷将と呼ばれた志田一族は刀剣の扱いに優れ、数々の武勲を挙げて関東地方に台頭しており、志田家嫡男の志田穂月は元服の際、志田家に代々伝わる名刀時切丸を託された。13歳での初陣から多くの出陣で時切丸と命運をともにした穂月は、刀剣に宿る数奇な力ともまた、心理一体であったらしい。
穂月の長い腕が大切な宝物を抱えるみたいに、ぎゅっと私を抱きしめる。
今朝、目が覚めるまで一緒にいた穂月の腕の中。変わってない。誰よりもそばにいて、1番深いところで溶け合った。他の誰も届けない、穂月だけ。
その腕の中にいたら、穂月が心変わりしたとか、遊びだったとか、ちんけな年増がダメだったとか、そんなんじゃなくて、何かどうしようもない事態に陥ったんだろうと分かった。
分かったけど、それを受け入れられるかというと、それはまた別の話で、一向にぐずぐず涙が止まらない。出来る女はこういう時、何も聞かずに身を引くんだろう。逃げたり隠れたりすがったりしないで、潔く別れを受け入れるんだろう。
でも、…
でもさあ?
初めて二人で迎えた朝に、絶世の美少女を連れて現れるって、さすがにどういう了見よ??
「すまぬ、…どういうことか、俺にもよく分からぬ」
泣いている私を優しく撫でながら、なんだか穂月自身も途方に暮れているようだった。
「…ええっと、それで。その制服、桜百合学園のよね? あなたはそこの生徒さん?」
カーテンの向こうで、お茶を淹れてあげたらしいマキちゃんが、渦中の美少女に話しかけている。
「はい。一年の、三宮なえと申します」
鈴を転がすような可愛らしい声が答えた。
三宮、…
「…なえっ!?」
ガバっと顔を上げたら、暗い表情の穂月と目があった。
「彼女は、俺を待っていたという。戦国の世で共に過ごし、時を超えてここに辿り着いた、…俺の『なえ』だ、と」
穂月が重い声音で話すと、衝撃で声が出ない私の代わりに、
「えええええ~~~~~~っ!?」
「はああああ~~~~~~っ??」
坂下さんと鷹峰くんの絶叫が上がり、
「ナナエ、あんた、偽物だったんかい、…っっ」
またしても的確なマキちゃんの突っ込みが入った。
三宮なえさんの声は聞こえないけど、無言の肯定、ということだろう。
そう、つまり。
穂月が全てを投げうってでも共に生きたいと心に決めた相手は、私じゃなかった、…ってことだ。
そんな、…
そんなあああ、…
今更、人違いでしたとか、
神様、そんなのありですか、…――――――???
「俺の身に起きたことを全て話す。俺にも未だよく分からぬが、聞いて欲しい」
愕然と理解が追い付かない私を抱きしめたまま、穂月が静かに話し始めた。
「今朝方、夜明け前。時切丸に呼ばれて目が覚めた、…」
時切丸というのは、穂月がここに来た最初に携えていた刀のことらしい。
戦国の雷将と呼ばれた志田一族は刀剣の扱いに優れ、数々の武勲を挙げて関東地方に台頭しており、志田家嫡男の志田穂月は元服の際、志田家に代々伝わる名刀時切丸を託された。13歳での初陣から多くの出陣で時切丸と命運をともにした穂月は、刀剣に宿る数奇な力ともまた、心理一体であったらしい。
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