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「…俺と卯月はなえに保護されているのだな」
穂月がポツリと呟くと、東丸雪だるまが勢い込んで捲し立てた。
「そりゃあそうでしょう! 若い身空で子までこさえたんだか何だか知りませんけどね、所詮あなたは無職の学生。経済的に自立していないばかりか、菜苗さんの負担になっている。それに引き換えこの私! 東丸マモル34歳は、某有名国立大学を卒業後、大手一流商社に勤務の年収1000万超え。菜苗さんを幸せに出来るのはどちらかなんて、これはもう考えなくても分かるでしょう!!」
勢い余って立ち上がり、ファミレスのテーブルをドンドン叩いた東丸雪だるまは周囲の注目を集めて、居心地悪そうに座り直した。
「えーと、まあ、つまり、…そういうことです」
どちらが幸せかなんて、考えなくても分かる。そう、その通りだ。
ただ、勇気がないだけで、…
『己が歩いた道が唯一にして最善の道であろう?』
「あの、東丸さん、…」
机の下で、穂月の手を握りしめた。
「多分、大変ありがたいお話だと思うんです」
「いえいえそんな、愛があれば一夜の過ちくらい、…」
「でも東丸さんとは家族になれません。穂月が好きだから、…」
なんだか喉元に熱い塊が込み上げてきて、ぎゅっと目を瞑って大きく息を吸った。気づいたら、テーブルに片手をついて立ち上がっていた。
「穂月のことが好きだからですっ!!」
顔が熱い。頭が真っ白で。ですっ、ですっ、ですっ、と自分の声がこだまする。どれだけ大声を出したのか、家族連れでにぎわう休日昼間のファミリーレストランが一瞬静まり返り、…
やってしまった、と思ったら、
パチ。…パチパチ、…パチパチパチ、パチパチパチ、…
あちらこちらから温かい拍手が沸き起こった。
周りの皆さんの思いがけない優しさに、鼻の奥がツンとする。頭を下げて座りながら唇を嚙んだ。どうしよう、私、いい大人のくせに泣き過ぎる。
「…あのね、菜苗さん。僕は結婚に反対する花嫁の父じゃなく、あなたの婚約者として賢明な判断をね、…というか、これ以上ないほど好条件で譲歩したというか、…」
まるで信じられないという顔をして東丸さんが説得にかかる。
分かっている。
自分がこんな馬鹿げた選択をするなんて、思ってもみなかった。
「だるまさん、いたしかたないのでござる。ちちうえはいけめんなのでござる」
「ねえ、卯月くん。もしかしてだけど、だるまさんって僕のこと? ていうか、このハイスペックにして寛大な僕が振られるのは、だるまなせいなの?? 人間、所詮、顔が全てなの??」
「うづきはだるまさん、すきですよ?」
「卯月くん、ラブ――――っっ」
東丸さんが卯月に食い下がっているのを横目に、
「…なえ」
穂月がしっかり手を繋いで、もう片方の手を私の頭にのせた。
瞬間、やっぱり全然分かっていなかったと思った。
穂月に呼ばれると、心が震える。
しっかりつないでくれた穂月の手が温かい。力強い。心地よい。
自分にこんな、賢い選択が出来るなんて、知らなかった。
こんなにも爽快でわくわくして心躍る未来を選択できるなんて。
意外と私も、捨てたもんじゃないじゃん。
穂月がポツリと呟くと、東丸雪だるまが勢い込んで捲し立てた。
「そりゃあそうでしょう! 若い身空で子までこさえたんだか何だか知りませんけどね、所詮あなたは無職の学生。経済的に自立していないばかりか、菜苗さんの負担になっている。それに引き換えこの私! 東丸マモル34歳は、某有名国立大学を卒業後、大手一流商社に勤務の年収1000万超え。菜苗さんを幸せに出来るのはどちらかなんて、これはもう考えなくても分かるでしょう!!」
勢い余って立ち上がり、ファミレスのテーブルをドンドン叩いた東丸雪だるまは周囲の注目を集めて、居心地悪そうに座り直した。
「えーと、まあ、つまり、…そういうことです」
どちらが幸せかなんて、考えなくても分かる。そう、その通りだ。
ただ、勇気がないだけで、…
『己が歩いた道が唯一にして最善の道であろう?』
「あの、東丸さん、…」
机の下で、穂月の手を握りしめた。
「多分、大変ありがたいお話だと思うんです」
「いえいえそんな、愛があれば一夜の過ちくらい、…」
「でも東丸さんとは家族になれません。穂月が好きだから、…」
なんだか喉元に熱い塊が込み上げてきて、ぎゅっと目を瞑って大きく息を吸った。気づいたら、テーブルに片手をついて立ち上がっていた。
「穂月のことが好きだからですっ!!」
顔が熱い。頭が真っ白で。ですっ、ですっ、ですっ、と自分の声がこだまする。どれだけ大声を出したのか、家族連れでにぎわう休日昼間のファミリーレストランが一瞬静まり返り、…
やってしまった、と思ったら、
パチ。…パチパチ、…パチパチパチ、パチパチパチ、…
あちらこちらから温かい拍手が沸き起こった。
周りの皆さんの思いがけない優しさに、鼻の奥がツンとする。頭を下げて座りながら唇を嚙んだ。どうしよう、私、いい大人のくせに泣き過ぎる。
「…あのね、菜苗さん。僕は結婚に反対する花嫁の父じゃなく、あなたの婚約者として賢明な判断をね、…というか、これ以上ないほど好条件で譲歩したというか、…」
まるで信じられないという顔をして東丸さんが説得にかかる。
分かっている。
自分がこんな馬鹿げた選択をするなんて、思ってもみなかった。
「だるまさん、いたしかたないのでござる。ちちうえはいけめんなのでござる」
「ねえ、卯月くん。もしかしてだけど、だるまさんって僕のこと? ていうか、このハイスペックにして寛大な僕が振られるのは、だるまなせいなの?? 人間、所詮、顔が全てなの??」
「うづきはだるまさん、すきですよ?」
「卯月くん、ラブ――――っっ」
東丸さんが卯月に食い下がっているのを横目に、
「…なえ」
穂月がしっかり手を繋いで、もう片方の手を私の頭にのせた。
瞬間、やっぱり全然分かっていなかったと思った。
穂月に呼ばれると、心が震える。
しっかりつないでくれた穂月の手が温かい。力強い。心地よい。
自分にこんな、賢い選択が出来るなんて、知らなかった。
こんなにも爽快でわくわくして心躍る未来を選択できるなんて。
意外と私も、捨てたもんじゃないじゃん。
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