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iiyori.02

06.

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「なえの作る鍋は美味いな。ごちそうさま」
「ははうえ、ごちそうさまにござりまする」

マキちゃんも言ってたけど、穂月と卯月は育ちがいいと思う。切って煮ただけの鍋を、しかもほとんど穂月が作ったのに、すごく美味しそうに食べてくれるし、褒めてくれるし、箸裁きも美しい。卯月も小さな手で器用に食器を扱うし、所作になんか品格がある。

やっぱり彼らは若殿様なのかなあ、…

「…片付けておくから風呂に入ってこい」

お腹が満たされたせいか、動くのがだるくなってぼけっとしていたら、穂月に促された。いやでも、こうして率先して立ち動いてくれるところ、令和男子も真っ青だよなあ、…

「どうした? 一人で行けないなら背を流してやろうか?」

「…せっ!?」

気づいたら穂月が近い。動転して声が裏返った。
数センチまで迫った整い過ぎた穂月の顔が、漆黒の瞳に面白そうな色を浮かべて、私を見ている。

家事万能サムライのくせに急に男気出してくるの止めて欲しいっ。一瞬垣間見てしまった穂月の鍛え抜かれた全裸ショットを思い出してしまうから、って私、…思い出すの、やめなさ―――いっっ

「ははうえ、またかおがあかくござりまするよ? うづきがおともいたしましょうか?」

3歳児に心配されちゃうでしょうっ??

「ハハ、なえは恥ずかしがりなのだ。卯月は俺が洗ってやる」

私の頬を人差し指の背で撫でると、穂月が笑いながら卯月を抱き上げてキッチンに向かう。

「…ははうえはおさるのようですね」

サルで悪かったじゃんっ!!

「お風呂行ってきますっ!!」

とりあえずお風呂場に飛び込んだ。
あの親子、保護してやった恩も忘れて人をからかって!!
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