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iiyori.02

03.

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学校帰りに警察に寄って、行方不明者届が出されていないかどうか確認してみたけど、穂月や卯月に該当する人はいないようだった。

秘かに卒業生名簿も確認してみたけど、志田穂月の名前はない。偽名ってことも考えられるけど、穂月が元生徒なら、学校教職員か生徒か誰かしらは覚えていそうなもので、あんな新種発見みたいな騒ぎにはなるまい。

…つまり。だから。

いよいよこれは、時を超えた説が有効か??

「ちちうえ、このいちはたべものがほうふですね」
「下ごしらえが済んでいたり、凍っているものもあるな。便利なものだ」

食いぶちが増えたので、毎日コンビニ弁当というわけにもいかず、スーパーに寄ってみたのだが、思いのほか穂月と卯月が売り場を見て盛り上がっている。それが全部演技とも思えないし、ううーん、でもなぁ、…

その様子を見ながら内心首をひねってしまう。

百歩譲ってタイムトリップしたとしてもさ、卯月が私の子ってのはさすがに無理があるんじゃないかなあ。だって私は生まれてから29年間、ずっとここにいたわけだし。だから穂月が会いたがってた過去の私は本当は私じゃなくて、先祖とか前世とかそういう、…

なんかいろいろ考え始めたら急にもやもやした気分になって、胃の辺りがチクリと痛んだ。

「本当は、私じゃない、…」

「…って、あなたですよ、あなたっ! 菜苗さんっ!! こんばんは。奇遇ですね。今、お帰りですか?」

ふと目の前を縦よりも横に大きい人影に塞がれて、顔を上げると、どこかで見たことのある男の人が立っていた。

「…こんばんは。ええ、…っと、…」

どこ? どこだ? どこで会った?
学校関係? 保護者? 移動した先生? 卒業生?
え、もしかしてプライベート??

「ええ、…っと、…」

記憶の糸を端から手繰ってみるけどなかなかヒットせずに焦る。

「…奇遇ですね?」

とりあえず薄っぺらい笑いを張り付けてみるけど、全然記憶が出てこない。確か最近あった人だよな。誰だっけな、どこだっけな。

「菜苗さん、あの、もしかしたら僕のこと、…」
「いえいえホントそう、奇遇ですよね、うっほっほ」
「…うっほっほ、…??」

焦りに焦って思い出そうとしていると、

「…なえ。知り合いか?」

それに気づいた穂月が戻ってきて無意識に核心を突いた。

そこ―――っ、知り合いなんだけど、出てこないんだよ―――っ

張り付けた笑いが引き攣って冷や汗が流れる。

「どちらさまでござりまするか」

…詰んだ、と思っていたら、卯月のナイスアシストで、

「…えーっと、君たちこそ菜苗さんの知り合いなのかな。僕は東丸ひがしまるマモルと言って、菜苗さんの婚約者なんだけど」

雪だるまみたいに色白でぷっくりしたお兄さんの恐ろしい正体が判明した。
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