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iiyori.02

01.

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「先生のご親戚の志田穂月。すこぶる優秀ですねえ」

生徒のみならず、教職員からも注目を浴びていた穂月は、頭脳も運動能力もカリスマ性にも優れているらしく、

「英語も最初たどたどしかったのがあっという間に習得して、…」
「科学にもひどく興味があるようで、これがまたいい質問をするんですよ」
「いやいや、何より歴史でしょう。彼はその場にいたかのように戦国時代を語りましてね、…」

職員室で、一躍時の人になっていた。

実際、穂月は何でも出来た。

学校にはすぐに馴染み、男女問わず周りに何人も侍らせているし、視野が広く率先して人に手を貸すし、細身に見えて鍛えられた身体は驚くほど力強く頼もしい。

多分素質が違うんだと思う。

もともと優れた遺伝子を持っていたのが時代に鍛えられて、時を超えても適応能力を発揮している。いつの世に生まれても天下をとる人は天下をとるんじゃないかという、…

いや、まだ穂月の時を超えた説を信じてる訳じゃないけどね。

…ないけどね!?

「…チョロ過ぎるじゃん。それもう完全に信者じゃん」

養護教諭のマキちゃんが鼻で笑い飛ばす。
マキちゃんの足元では、卯月が広げた紙の上に石を並べてせっせと遊んでいた。

「まあ彼らが優秀なのは認めるけどさ。卯月も凄いよね。トイレ教えてくれるし何でも食べるし一人遊びしてくれるし眠くてもぐずらない。ホント全然手がかからない」

マキちゃんが卯月の頭をよしよし撫でる。卯月は顔を上げるとつぶらな瞳を瞬いてにっこり笑った。

…か、…可愛いっっ
ゆっくり愛でてる隙が無かったけど、この子めっちゃくちゃ可愛くないか??

「…親バカ丸出しじゃん」

引き寄せられるように卯月に擦り寄って頭をなでなでしていたら、マキちゃんに呆れたような顔で見られた。

そして、気がつく。
卯月は無意味に石を並べているのではなく、陣取りゲームのようなことをしているんじゃないか、と。

「卯月、これなぁに?」
「きへいのかずがたりぬばあい、じんけいでおぎなうるかと、…」

なんかこのチビっ子、空恐ろしいこと言い出したよ!?
彼らやっぱり本当にタイムトリップ、…??

絶賛信者モードに入っていると、

「なえ、一緒に帰るぞ」

保健室のドアがノックされ、穂月が顔をのぞかせた。その向こうにわらわらと穂月に魅了された信者なかまたちの姿が見える。保健室前の廊下は今や埋め尽くされんばかりの人だかりが出来ていた。
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