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iiyori.01
09.
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穂月はどこかの偉い若殿様だったのかもなあ、…
などという考えが頭を巡り、慌てて打ち消す。
信じてるじゃん、私。穂月の話。
すっかり洗脳されてますやん。
「…どうした、なえ? 俺に会いたくなった?」
脳内で横っ面を引っぱたいてその場を離れようとしたら、目ざとく私を見つけたらしい穂月が人波をかき分けて教室から出てきた。
「いやいやいや。どうしてるかな、と思っただけで、大丈夫だから早く戻って、…」
教室中の、なんなら廊下からも、至るところから鬼のように注目を浴びて、後退する私にはお構いなしに、
「…俺は会いたかった」
穂月が片腕でそっと私の頭を抱き寄せた。
一瞬、恐ろしいほどの沈黙が校舎を襲い、
「ぎゃあああ~~~」「うぎゃあああ~~~~」
「ふんぎゃあああああ~~~~~~~~」
窓ガラスが割れそうなほどの凄まじい絶叫がこだました。
「穂月のいた海外では身内でハグするのが風習なんです~~~っっ、皆さんどうぞ、うちの親戚の子を今後ともよろしくね~~~っっ」
私をすっぽり包み隠すほど大きい穂月の胸を力の限り押しやりながら、冷や汗だらだらで薄笑いを張り付けて必死に叫んだ。我ながら空々しくて寒々しいと分かっているし、なによりちょっと穂月が傷ついたような顔をしているのが居たたまれないけど、致し方ない。
致し方ないでしょう、これは。大人として。
「じゃあ、穂月。放課後友だちと遊んできてもいいから」
引き攣った笑顔のまま、穂月の方を見れずに、そそくさとその場から逃げるように退却した。
29歳、真面目なだけが取り柄の高校教師は、イケメン過ぎるサムライ高校生と人前でハグなどしてはいかんのです。
いかんのですっっ!!
階段を駆け下りながら顔の熱を冷ます。
穂月の様子が気になって見に行ったのは事実。
でも、…会いたかったのも事実。
そんなの絶対認めたくないけど。
穂月が見つけてくれて嬉しかったのも、人目もはばからず抱き寄せてくれて嬉しかったのも、…
…事実。
だなんて、そんなの本当に困るんだよ。
などという考えが頭を巡り、慌てて打ち消す。
信じてるじゃん、私。穂月の話。
すっかり洗脳されてますやん。
「…どうした、なえ? 俺に会いたくなった?」
脳内で横っ面を引っぱたいてその場を離れようとしたら、目ざとく私を見つけたらしい穂月が人波をかき分けて教室から出てきた。
「いやいやいや。どうしてるかな、と思っただけで、大丈夫だから早く戻って、…」
教室中の、なんなら廊下からも、至るところから鬼のように注目を浴びて、後退する私にはお構いなしに、
「…俺は会いたかった」
穂月が片腕でそっと私の頭を抱き寄せた。
一瞬、恐ろしいほどの沈黙が校舎を襲い、
「ぎゃあああ~~~」「うぎゃあああ~~~~」
「ふんぎゃあああああ~~~~~~~~」
窓ガラスが割れそうなほどの凄まじい絶叫がこだました。
「穂月のいた海外では身内でハグするのが風習なんです~~~っっ、皆さんどうぞ、うちの親戚の子を今後ともよろしくね~~~っっ」
私をすっぽり包み隠すほど大きい穂月の胸を力の限り押しやりながら、冷や汗だらだらで薄笑いを張り付けて必死に叫んだ。我ながら空々しくて寒々しいと分かっているし、なによりちょっと穂月が傷ついたような顔をしているのが居たたまれないけど、致し方ない。
致し方ないでしょう、これは。大人として。
「じゃあ、穂月。放課後友だちと遊んできてもいいから」
引き攣った笑顔のまま、穂月の方を見れずに、そそくさとその場から逃げるように退却した。
29歳、真面目なだけが取り柄の高校教師は、イケメン過ぎるサムライ高校生と人前でハグなどしてはいかんのです。
いかんのですっっ!!
階段を駆け下りながら顔の熱を冷ます。
穂月の様子が気になって見に行ったのは事実。
でも、…会いたかったのも事実。
そんなの絶対認めたくないけど。
穂月が見つけてくれて嬉しかったのも、人目もはばからず抱き寄せてくれて嬉しかったのも、…
…事実。
だなんて、そんなの本当に困るんだよ。
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