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iiyori.01

06.

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「馬鹿じゃないの? あんたホントに馬鹿じゃないの!?」

で、その結果。翌朝一番に。
私立令和学院高校の保健室で、養護教諭の真木 鈴華まき すずかに力いっぱい罵倒された。

「ま、…マキちゃん。そんなバカバカ、身も蓋も、…」

「路頭に迷った怪しい子連れの若い男を、ほっとけなくて一晩泊めた挙句に衣食住の世話をする、って。これを馬鹿と言わずに何というの!? あんたもう立派な大人よねえ??」

「…ごもっともです、…」

いやまあ、私だって自分がどうかしているという自信はある。

とりあえず、身元が分かるまで穂月と卯月を家で保護することにし、勤務先の学校に連れて来てみた。外国帰りの遠い親戚の子を預かることになりまして、と怪しさしかない話を校長にごり押しして穂月を私のクラスに編入してもらい、予備の制服を貸してもらった。現在、穂月は、時代俳優も真っ青な麗しき高校生の姿で、全校生徒の注目を浴びながら、授業を受けている。

なんかこう、時代劇から抜け出してきたみたいな穂月は、(本人は時代を超えて来たっていうけど)、認識が頼りないので、取り急ぎ現代世界に慣れさせた方がいいんじゃないかと思ってさ。年齢からして高校生だし、教養はあっても困らないし。

「…思ってさ、じゃないわよ。あの見た目に騙されて、一夜の過ちでほだされたんじゃないでしょうねえ??」

マキちゃんは苦虫を嚙み潰したような顔をして、慣れた手つきで志田卯月を抱っこしながら牛乳を飲ませている。

容赦なく私を罵る美人養護教諭のマキちゃんこと真木鈴華は、私の高校時代からの親友で、何でも話せる貴重な同僚職員にして、3歳の双子を持つワーキングマザーなので、洗いざらい白状して協力を仰いでいるところだ。

「ないよ、ないない。だって穂月は、…」

私が穂月を覚えていないと知って、手を出さないと誓ってくれた。

『なえが望んだらまた抱いてやる。だから早く俺を好きになれ』

いやなんか、微妙にニュアンスは違うかもしれないけど。

だからまあ、昨日は平和に三人で川の字に寝て、卯月のおねしょで起こされて、

「ははうえ、ちりがつめたくござる」
「卯月、小便は厠でするよう教えたであろう」
「…かたぢけない」

幼児のお世話なんて皆目見当もつかない私はこうしてマキちゃんに泣きついたというわけで。
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