5 / 92
iiyori.01
05.
しおりを挟む
「つまり、…覚えてないのか」
大声で喚いたせいで起きてしまった卯月を抱き上げ、器用にあやしながら、穂月が愕然とつぶやく。
覚えてないというよりは、そんな荒唐無稽な話、信じろって方が無理だろうってとこだけど、
「そうか、…覚えてないのか」
穂月があんまりにも落胆していて悲しそうなので、こっちも居た堪れない気分になってきて、ちょっとはなんか思い出す努力をしなさいよ、みたいな無茶振りを、脳にしてみる。
「えっと、でも、…穂月のキスは、…」
そんな無茶振りに応えようと脳が最大限頑張って捻り出した一言を、それとなく口にして、
「…好、…」
全力で後悔して自分の横っ面を引っぱたいた。
「痛った!!」
「…なえ、どうした? 落ち着け?」
穂月に揺られてまた健やかな寝息を立てた卯月を床に寝かせると、穂月が私の手を取る。
「…赤くなっている」
そしてもう片方の手の甲でそっと私の頬を撫でると、そのまま親指で私の唇を撫でた。
「…俺のキスは好きか」
息が止まる。動けない。答えられない。
穂月の親指、破壊力強すぎるでしょう!?
指先一つで魂を抜かれたみたいな気分になって、呆然と見惚れている私の顎に指をかけて、
「なら、いい」
長いまつ毛を伏せると、
「また、俺を好きになればいい」
穂月はゆっくり口づけた。
柔らかく。優しく。
甘く。食むように。
避けようと思えば避けられた。多分。
でもそんなことは1ミリも考えられず、
…うん、穂月、…
って、ウンじゃないだろぉおお―――いっ!!
頭の後ろの方から聞こえる理性の警告を根こそぎ無視して、穂月のキスに溺れてしまった。
大声で喚いたせいで起きてしまった卯月を抱き上げ、器用にあやしながら、穂月が愕然とつぶやく。
覚えてないというよりは、そんな荒唐無稽な話、信じろって方が無理だろうってとこだけど、
「そうか、…覚えてないのか」
穂月があんまりにも落胆していて悲しそうなので、こっちも居た堪れない気分になってきて、ちょっとはなんか思い出す努力をしなさいよ、みたいな無茶振りを、脳にしてみる。
「えっと、でも、…穂月のキスは、…」
そんな無茶振りに応えようと脳が最大限頑張って捻り出した一言を、それとなく口にして、
「…好、…」
全力で後悔して自分の横っ面を引っぱたいた。
「痛った!!」
「…なえ、どうした? 落ち着け?」
穂月に揺られてまた健やかな寝息を立てた卯月を床に寝かせると、穂月が私の手を取る。
「…赤くなっている」
そしてもう片方の手の甲でそっと私の頬を撫でると、そのまま親指で私の唇を撫でた。
「…俺のキスは好きか」
息が止まる。動けない。答えられない。
穂月の親指、破壊力強すぎるでしょう!?
指先一つで魂を抜かれたみたいな気分になって、呆然と見惚れている私の顎に指をかけて、
「なら、いい」
長いまつ毛を伏せると、
「また、俺を好きになればいい」
穂月はゆっくり口づけた。
柔らかく。優しく。
甘く。食むように。
避けようと思えば避けられた。多分。
でもそんなことは1ミリも考えられず、
…うん、穂月、…
って、ウンじゃないだろぉおお―――いっ!!
頭の後ろの方から聞こえる理性の警告を根こそぎ無視して、穂月のキスに溺れてしまった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
再会したスパダリ社長は強引なプロポーズで私を離す気はないようです
星空永遠
恋愛
6年前、ホームレスだった藤堂樹と出会い、一緒に暮らしていた。しかし、ある日突然、藤堂は桜井千夏の前から姿を消した。それから6年ぶりに再会した藤堂は藤堂ブランド化粧品の社長になっていた!?結婚を前提に交際した二人は45階建てのタマワン最上階で再び同棲を始める。千夏が知らない世界を藤堂は教え、藤堂のスパダリ加減に沼っていく千夏。藤堂は千夏が好きすぎる故に溺愛を超える執着愛で毎日のように愛を囁き続けた。
2024年4月21日 公開
2024年4月21日 完結
☆ベリーズカフェ、魔法のiらんどにて同作品掲載中。
大人な軍人の許嫁に、抱き上げられています
真風月花
恋愛
大正浪漫の恋物語。婚約者に子ども扱いされてしまうわたしは、大人びた格好で彼との逢引きに出かけました。今日こそは、手を繋ぐのだと固い決意を胸に。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
麗しのラシェール
真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」
わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。
ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる?
これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。
…………………………………………………………………………………………
短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる