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番外編.01.制服マジック
01.
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「無理無理っ、絶対に無理―――っ」
「なんで? いけるって」
「むむむ、…無理だよっ、あの頃より太ったし、曲がりなりにも社会人だし、道徳に反するっていうか、…っ」
「いや? 可愛いと思うよ?」
「な、…っ」
「俺も着るから。な?」
「な、な、…っ」
ななせ、ずるいぃいいい―――――っっ
マンションの別階に住む母が、高校時代の制服を持って来た。
「なんか、こっちの荷物に入ってたのよね。勝手に処分するのもなんだし、まあ、…好きにして。新婚だしね」
制服と新婚に何の因果関係があるのか。語尾に意味不明なハートマークを付けて、さっさと退散して行った不可解な母の後に。残されたクリーニング済の制服が二着。
いや、まあもう。処分するしかないんだけど、…
二着の制服をカバーから出して、隣同士に並べてみる。
高校時代、ななせはこの制服を着て、死ぬほどモテていた。私と同じ制服を着た女子たちが列をなして群がっていたけど、私はその輪には入れなかった。
いや、別に入りたかったわけじゃないし。
私は他に好きな人がいてその人に夢中だったしね。
…と強がりながら見ても、制服が泣いている。
制服デートとか、待ち合わせて登下校とか、体育祭でハチマキ交換したり、文化祭一緒に回ったり、放課後の図書室で勉強したり、…私の高校時代は甘酸っぱい恋の思い出とは無縁だった。
調理部で買い出し行ったり、出店やったり、野菜を刻み過ぎて手が腱鞘炎になったり、…楽しかったことは沢山あるけど。青春は恋だけじゃないけど。
もしもあの頃。
ななせに好きって言えていたら、違う青春があったのかな。
ななせのことは、好きになっちゃいけないと思ってたけど。
例えば卒業式に。「ネクタイ下さい」とか、言ってみたりとか。
綺麗にアイロンがけされた制服のネクタイを撫でる。
いや、同じ家にいるのにもらってもなんだって話だけど。
ていうか、ここにネクタイがあるってことは、ななせ、誰にもあげなかったんだ、…
などとノスタルジックな気分に浸り、気づいたら、自分の制服のブレザーを取り外して袖を通し、ななせの制服に向かい合ってお願いしていた。
「あの、ななせ。…ネクタイ、もらえる?」
「…いーよ?」
「ぎ、…っ」
突如聞こえてきたななせの声に全身の毛が逆立った。
「ギいやああああ――――――っっ」
これ以上のホラーがあろうか。
「ななな、ななせ、…っっ」
なんで帰ってきたの!? (*新婚だから)
見られた。聞かれた。恥ずか死ぬ。
今すぐもう一度ななせの記憶を抹消せねばっ
ちょっとばかりハンガーを頭にぶつけてみようかと振り上げた手は簡単に掴まれて、
「…楽しそうなことしてんじゃん。ちゃんと着て言って。俺、つぼみの制服姿もう一回見たい」
ものすごーく悪い笑顔のななせに無理難題を吹っ掛けられた。
…と、いうわけです。
「なんで? いけるって」
「むむむ、…無理だよっ、あの頃より太ったし、曲がりなりにも社会人だし、道徳に反するっていうか、…っ」
「いや? 可愛いと思うよ?」
「な、…っ」
「俺も着るから。な?」
「な、な、…っ」
ななせ、ずるいぃいいい―――――っっ
マンションの別階に住む母が、高校時代の制服を持って来た。
「なんか、こっちの荷物に入ってたのよね。勝手に処分するのもなんだし、まあ、…好きにして。新婚だしね」
制服と新婚に何の因果関係があるのか。語尾に意味不明なハートマークを付けて、さっさと退散して行った不可解な母の後に。残されたクリーニング済の制服が二着。
いや、まあもう。処分するしかないんだけど、…
二着の制服をカバーから出して、隣同士に並べてみる。
高校時代、ななせはこの制服を着て、死ぬほどモテていた。私と同じ制服を着た女子たちが列をなして群がっていたけど、私はその輪には入れなかった。
いや、別に入りたかったわけじゃないし。
私は他に好きな人がいてその人に夢中だったしね。
…と強がりながら見ても、制服が泣いている。
制服デートとか、待ち合わせて登下校とか、体育祭でハチマキ交換したり、文化祭一緒に回ったり、放課後の図書室で勉強したり、…私の高校時代は甘酸っぱい恋の思い出とは無縁だった。
調理部で買い出し行ったり、出店やったり、野菜を刻み過ぎて手が腱鞘炎になったり、…楽しかったことは沢山あるけど。青春は恋だけじゃないけど。
もしもあの頃。
ななせに好きって言えていたら、違う青春があったのかな。
ななせのことは、好きになっちゃいけないと思ってたけど。
例えば卒業式に。「ネクタイ下さい」とか、言ってみたりとか。
綺麗にアイロンがけされた制服のネクタイを撫でる。
いや、同じ家にいるのにもらってもなんだって話だけど。
ていうか、ここにネクタイがあるってことは、ななせ、誰にもあげなかったんだ、…
などとノスタルジックな気分に浸り、気づいたら、自分の制服のブレザーを取り外して袖を通し、ななせの制服に向かい合ってお願いしていた。
「あの、ななせ。…ネクタイ、もらえる?」
「…いーよ?」
「ぎ、…っ」
突如聞こえてきたななせの声に全身の毛が逆立った。
「ギいやああああ――――――っっ」
これ以上のホラーがあろうか。
「ななな、ななせ、…っっ」
なんで帰ってきたの!? (*新婚だから)
見られた。聞かれた。恥ずか死ぬ。
今すぐもう一度ななせの記憶を抹消せねばっ
ちょっとばかりハンガーを頭にぶつけてみようかと振り上げた手は簡単に掴まれて、
「…楽しそうなことしてんじゃん。ちゃんと着て言って。俺、つぼみの制服姿もう一回見たい」
ものすごーく悪い笑顔のななせに無理難題を吹っ掛けられた。
…と、いうわけです。
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