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6章.さいご色コーズアイラブ

06.

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「俺、…」

ちょっと考えあぐねるように沈黙した後、再び口を開いたななせの言葉の続きを、固唾かたずを呑んで待つ。

別れようとしている相手との結婚式って、やっぱりあり得ないかな??

「…意外と腹黒なんだな」

何の話!?

緊張して見れなかったななせの顔を真正面からまじまじと見つめてしまった。

く、…いつ見てもカッコいい。
ちょっとばかり発言がおかしくても、何の脈絡もなくとも、麗しく整い過ぎた顔面偏差値は健在。

悔しくもななせに見惚れていると、

「…アホ面」

ふっとななせが表情を緩めて私の頬を摘まんだ。
ほんの少しだけ、かすめる程度に。

すごく、優しい目をして。少し、困ったように笑って。

…ななせ。
なんか。なんか、…

それって、ウニ面より昇級したと思ってもいいですか。
結婚式、拒絶されなかったと思ってもいいですか。

そう思いたくなるような、どこか柔らかいななせの空気に期待してしまう。
私って意外とポジティブなのかも。

さっきまで、別れ話されてたような気もするけど。体よく流されたのかもしれないけど。結局のところ、ななせの結論はよく分からないけど。

別れ話も結婚式もとりあえず棚上げってことで。
まあ、即決されるよりマシ、…だよね。

「…な、行きたいとこある?」

何かを諦めたような、吹っ切ったような感じのななせが、小首を傾げて私をのぞき込む。さっきまで必死でななせをつかんでいた手が、いつの間にかななせに絡められていた。

指と指が。優しく、柔らかく、密着する。
ななせの感触。ななせの熱。繋がる。伝わる。
意識したら、急に力の入れ方が分からなくなった。

「…え、ええっとねー、家の冷蔵庫に何があるか分からないから、スーパーに寄りたい!!」

急速に立ち昇ってきた顔の熱さを誤魔化したくて、無駄に威勢よくなってしまった。

「スーパーね。他には?」
「…他、は、特にないかな」
「了解」

繋がれていない方のななせの手が、私の頭を軽く撫でた。

「…つぼみ、とりあえず毎日様子診せに、…」

退院を見送りに来てくれたらしい侑さんが現れて、

「…ななせ。無理させんなよ?」

ななせと繋いだ手に目を止める。

…無理?

私にはピンと来なかったことがななせには通じたらしく、

「…今日はしない」

ななせが侑さんに答えると、

「…ほおお」

ちょっとからかうように侑さんが目を細めた。
けれど、一瞬後に、ななせがすごく真顔になって、

「…侑。明後日、ちょっと時間くれる?」

侑さんを見たので、

「…おう」

侑さんも真剣な表情で頷いた。
それを見てななせは安心したように片手を振ると、

「じゃあ、また」

私の手を引いて病室を出た。

「侑さん、ありがとうございました」
「ああ、お大事に」

侑さんに頭を下げて、ななせに続く。

エレベータでも、ロビーでも、病院を出ても、ななせはずっと手を繋いでいてくれた。

「…つぼみさん、ご退院おめでとうございます」
「この度は大変でしたね」

タクシーに乗るほんのわずかな時間に報道関係者らしき人たちが詰めかけてきても、

「…どうもありがとうございます」

ななせは手を繋いだまま笑顔でかわして、私を庇うように足早にタクシーに促した。

毅然として揺るぎなく、テロリスト集団から逃れてヘリコプターに乗った時のように、迅速で、すごく守られている感がある。反面、何か確固たる決意を感じる。

侑さんに時間が欲しいって言ってたし、ななせは何か、決めたのかもしれない。やっぱりななせが離れてしまうような気がして、繋いだ手に力を込めると、柔らかく握り返してくれた。
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