セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】

remo

文字の大きさ
上 下
95 / 95

柚くんの幸せ (完結)

しおりを挟む
「藤倉くん、…タヌキが好きなの?」

最近やたらと言われる。
なぜなら。

赤菱商事海外推進部。
俺のデスクの上には、信楽焼タヌキの置物が鎮座しているから。

社内での俺の名前は「藤倉タヌキ」なんじゃないかと思う。

ホントあいつ、…

鎮座する信楽焼タヌキの頭を指で弾いた。

『柚くん、お誕生日おめでとう!」

先日。
あおいが満面笑顔で俺に差し出した誕生日プレゼントを開けると、

「…ありがとう」

中から信楽焼あおいが超絶能天気な顔で出てきた。

「可愛いよねっ」

あおいがやたら嬉しそうにドヤ顔で俺を見るので、

「…うん」

頷いて、信楽焼あおいの頭にキスすると、

本家あおいが目を大きく見開いて俺と信楽焼を交互に見ながらそわそわしていた。

「可愛いね、お前」

信楽焼タヌキの頭を指で撫でると、

「柚くん…」

あおいがわかりやすく、悲愴感を漂わせていた。
顔に「負けた」って書いてある。

吹きそうになって、

「はいはい」

あおいをつかまえてキスすると、満足そうに頰を緩ませて俺の胸に顔を擦り寄せてきた。

単純でわかりやすくてばかでお人好し。
俺のタヌキは今日も絶好調に可愛い。

*****

「あの、結婚するって本当ですか」

昼休み。
フロアを出たところで知らない女性社員に捕まった。

「はい」
「…私、2番目でもいいです」

なんか瞳を潤ませてめちゃめちゃ見上げてくるんだけど、…誰?

「いや、…」
「奥さんより尽くします!」

胸の前で両手を組んで祈られてるみたいになってるんだけど、…誰?

「そういうの無理なんで」

とりあえず丁重にお断りした、つもりだったんだけど、

女性社員が泣き出した。

「あの人のどこがいいんですか? 私の方が可愛いし仕事できるし、藤倉くんのこと好きです! 私の方が絶対幸せに出来ます!!」

通路を行き交う人の目が辛い。

「すみません。俺、…タヌキ専門なんで」

もう一度丁寧にお断りすると、

「…藤倉くんのゲテモノ好き―――っ」

女性社員は捨て台詞を吐いて号泣して走り去って行った。

…なんか俺、こんなんばっかじゃね?

「わー柚くん、モテモテ。このところ連日じゃん」

後ろから、やたら楽しそうな声がする。

「橘に言っちゃおうかな。浮気してるって」
「してない」
「だって橘すぐ俺に相談してくるから。ホント可愛い」

なにこのうっとうしい上司。

もう面倒臭いからそのまま控室に行くと、桐生が付いて来た。

「言わないからさー、俺にも弁当作ってよ」
「絶対嫌だ」
「…橘には作ってるくせに」

なんかずるいみたいな口調で桐生が俺を見る。

いや、おかしいだろ。
なんで上司と彼女の扱いが同等なんだよ。

「俺、あんたと変な噂になりたくない」
「えー、俺は楽しいけど」
「…変態」

*****

あおいが珍しく先に帰ると言うから、仕事を終えてからあおいの家に行った。

なんか予感がしないでもなかったけど…

玄関を開けるとなんとも言えない焦げた匂いが部屋中に充満している。

「…あおい?」

キッチンをのぞくと、調理器具と食材がえらい勢いで散らかっていて、シンクの前にあおいが泣きそうな顔で立っていた。

とりあえず、ケガがなさそうで良かったと思いながら、あおいを抱きしめる。

「柚くん…」

なんで急に料理しようとしたのか、だいたい想像はつくけど。

昼間のあいつかなぁ…

別に料理なんて出来なくても。
他に何が出来なくても。

「…俺はあおいがいいよ」

「な、…んで…」

あおいが肩を震わせて泣いている。
ゆっくり背中をたたいてあやしながら抱きしめる腕に力を込めた。

「そのままで。…俺、お前なら何でもいい」

あおいをのぞき込むと、瞳にいっぱい涙をためたまま唇をひき結んで俺を見ていた。あおいの涙に口づける。

「柚くん、…」

あおいがしゃくりあげながら俺にしがみついて来た。
小さい頭を撫でる。

顔が可愛いとかスタイルがいいとか賢いとか仕事ができるとか、…
どんなに素晴らしい人だったとしても。

他の誰かじゃ心の空洞は埋まらなかった。
最初から俺の唯一はあおいだったんだと思う。

「…大好き」

泣いて赤い目をしたまま、あおいが俺に笑顔を向けた。

俺のタヌキは笑顔が死ぬほど可愛い。

その笑顔にキスしてもう一度抱きしめた。

もういい。
俺、藤倉タヌキで。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

ケダモノ、148円ナリ

菱沼あゆ
恋愛
 ケダモノを148円で買いました――。   「結婚するんだ」  大好きな従兄の顕人の結婚に衝撃を受けた明日実は、たまたま、そこに居たイケメンを捕まえ、 「私っ、この方と結婚するんですっ!」 と言ってしまう。  ところが、そのイケメン、貴継は、かつて道で出会ったケダモノだった。  貴継は、顕人にすべてをバラすと明日実を脅し、ちゃっかり、明日実の家に居座ってしまうのだが――。

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

クリスマスに咲くバラ

篠原怜
恋愛
亜美は29歳。クリスマスを目前にしてファッションモデルの仕事を引退した。亜美には貴大という婚約者がいるのだが今のところ結婚はの予定はない。彼は実業家の御曹司で、年下だけど頼りになる人。だけど亜美には結婚に踏み切れない複雑な事情があって……。■2012年に著者のサイトで公開したものの再掲です。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ハイスペックでヤバい同期

衣更月
恋愛
イケメン御曹司が子会社に入社してきた。

警察官は今日も宴会ではっちゃける

饕餮
恋愛
居酒屋に勤める私に降りかかった災難。普段はとても真面目なのに、酔うと変態になる警察官に絡まれることだった。 そんな彼に告白されて――。 居酒屋の店員と捜査一課の警察官の、とある日常を切り取った恋になるかも知れない(?)お話。 ★下品な言葉が出てきます。苦手な方はご注意ください。 ★この物語はフィクションです。実在の団体及び登場人物とは一切関係ありません。

処理中です...