セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】

remo

文字の大きさ
上 下
80 / 95

ラテタヌキの誘惑

しおりを挟む
通勤途中の洋菓子店にディスプレイされている「ラテマシュマロ」とやらのタヌキと目が合う。

店頭ポップによると、
ラテマシュマロというのは、コーヒーや紅茶などの温かい飲み物に入れて、ゆっくり溶けるのを楽しみ、まろやかな甘みを味わうスイーツギフトらしい。
動物のカラフルなイラストが付いていて、女性や子どもに人気らしい。

セット売りの動物の中に、1匹だけタヌキが混ざっている。
他にタヌキはいないから、プリントがずれたのか、手元が狂ったのか、恐らく偶然の産物だと思われる。

その、お人好しで能天気で憎めなくて癒される笑顔が、…

『柚くん。柚くん』

通りかかるたびに俺を呼ぶ。

オーバーワークで要領が悪くて、変なおっさんに言い寄られていて、あざとい同僚に陥れられているあおいは、昔と変わらない笑顔で、危なっかしくてすぐ赤くなるくせに、俺を呼ばない。

…ホントばか。

寝言で呼ぶくらいなら。
呼べばいつだって。

もうすぐ誕生日なのに無実の自宅謹慎で、
多分、…泣いてる。


奴がWEBを利用していて助かった。
コンピュータの情報量はあなどれない。

銀行が個人情報保護を持ち出して確認に手間取ったけど。

待ってろよ。
絶対、誕生日までには決着をつけてやるから。

すっかり日が落ちた帰り道、洋菓子店のディスプレイにタヌキがいなかった。
代わりにヒヨコが入ったギフトボックスになっている。

無意識のうちに店内に駆け込んだ。

「いらっしゃいませ」

フリルの着いたエプロン姿の店員に、

「あの、店頭に置いてたラテタヌキ、…」

自分でもおかしいほど慌てて問い合わせると、

「…ああ。こちらですか」

奥の方から見慣れたタヌキ入りのボックスを持ってきてくれた。

「本来の組み合わせではないものでしたので、返品しようかと、…」

「それ下さい」

考えるより先に言葉が出ていた。



「…ありがとう!」

ばかなあおいは自分の誕生日を忘れていた。

それでも本気で嬉しそうにクソ可愛い笑顔で俺を見た。

そうやって簡単に笑うくせに。

ムカついたのであおいの頭を軽く殴っておいた。

「飲んでみる?」

ラテタヌキが、マグの中で能天気な笑顔を浮かべて俺を見る。

『柚くん、柚くん』

こいつは素直に俺を呼ぶのに。

タヌキが溶けて甘い。
この恥ずかしいタヌキを買ったのかと思うとちょっと自分を殴りたくもなるけど、

まあ。

『柚くん』

他の奴にとられるのは癪だしな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

じれったい夜の残像

ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、 ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。 そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。 再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。 再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、 美咲は「じれったい」感情に翻弄される。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

会社の後輩が諦めてくれません

碧井夢夏
恋愛
満員電車で助けた就活生が会社まで追いかけてきた。 彼女、赤堀結は恩返しをするために入社した鶴だと言った。 亀じゃなくて良かったな・・ と思ったのは、松味食品の営業部エース、茶谷吾郎。 結は吾郎が何度振っても諦めない。 むしろ、変に条件を出してくる。 誰に対しても失礼な男と、彼のことが大好きな彼女のラブコメディ。

Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?

キミノ
恋愛
 職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、 帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。  二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。  彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。  無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。 このまま、私は彼と生きていくんだ。 そう思っていた。 彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。 「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」  報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?  代わりでもいい。  それでも一緒にいられるなら。  そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。  Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。 ――――――――――――――― ページを捲ってみてください。 貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。 【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

隣人はクールな同期でした。

氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。 30歳を前にして 未婚で恋人もいないけれど。 マンションの隣に住む同期の男と 酒を酌み交わす日々。 心許すアイツとは ”同期以上、恋人未満―――” 1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され 恋敵の幼馴染には刃を向けられる。 広報部所属 ●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳) 編集部所属 副編集長 ●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳) 本当に好きな人は…誰? 己の気持ちに向き合う最後の恋。 “ただの恋愛物語”ってだけじゃない 命と、人との 向き合うという事。 現実に、なさそうな だけどちょっとあり得るかもしれない 複雑に絡み合う人間模様を描いた 等身大のラブストーリー。

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

処理中です...