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ラテタヌキの誘惑
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通勤途中の洋菓子店にディスプレイされている「ラテマシュマロ」とやらのタヌキと目が合う。
店頭ポップによると、
ラテマシュマロというのは、コーヒーや紅茶などの温かい飲み物に入れて、ゆっくり溶けるのを楽しみ、まろやかな甘みを味わうスイーツギフトらしい。
動物のカラフルなイラストが付いていて、女性や子どもに人気らしい。
セット売りの動物の中に、1匹だけタヌキが混ざっている。
他にタヌキはいないから、プリントがずれたのか、手元が狂ったのか、恐らく偶然の産物だと思われる。
その、お人好しで能天気で憎めなくて癒される笑顔が、…
『柚くん。柚くん』
通りかかるたびに俺を呼ぶ。
オーバーワークで要領が悪くて、変なおっさんに言い寄られていて、あざとい同僚に陥れられているあおいは、昔と変わらない笑顔で、危なっかしくてすぐ赤くなるくせに、俺を呼ばない。
…ホントばか。
寝言で呼ぶくらいなら。
呼べばいつだって。
もうすぐ誕生日なのに無実の自宅謹慎で、
多分、…泣いてる。
奴がWEBを利用していて助かった。
コンピュータの情報量はあなどれない。
銀行が個人情報保護を持ち出して確認に手間取ったけど。
待ってろよ。
絶対、誕生日までには決着をつけてやるから。
すっかり日が落ちた帰り道、洋菓子店のディスプレイにタヌキがいなかった。
代わりにヒヨコが入ったギフトボックスになっている。
無意識のうちに店内に駆け込んだ。
「いらっしゃいませ」
フリルの着いたエプロン姿の店員に、
「あの、店頭に置いてたラテタヌキ、…」
自分でもおかしいほど慌てて問い合わせると、
「…ああ。こちらですか」
奥の方から見慣れたタヌキ入りのボックスを持ってきてくれた。
「本来の組み合わせではないものでしたので、返品しようかと、…」
「それ下さい」
考えるより先に言葉が出ていた。
「…ありがとう!」
ばかなあおいは自分の誕生日を忘れていた。
それでも本気で嬉しそうにクソ可愛い笑顔で俺を見た。
そうやって簡単に笑うくせに。
ムカついたのであおいの頭を軽く殴っておいた。
「飲んでみる?」
ラテタヌキが、マグの中で能天気な笑顔を浮かべて俺を見る。
『柚くん、柚くん』
こいつは素直に俺を呼ぶのに。
タヌキが溶けて甘い。
この恥ずかしいタヌキを買ったのかと思うとちょっと自分を殴りたくもなるけど、
まあ。
『柚くん』
他の奴にとられるのは癪だしな。
店頭ポップによると、
ラテマシュマロというのは、コーヒーや紅茶などの温かい飲み物に入れて、ゆっくり溶けるのを楽しみ、まろやかな甘みを味わうスイーツギフトらしい。
動物のカラフルなイラストが付いていて、女性や子どもに人気らしい。
セット売りの動物の中に、1匹だけタヌキが混ざっている。
他にタヌキはいないから、プリントがずれたのか、手元が狂ったのか、恐らく偶然の産物だと思われる。
その、お人好しで能天気で憎めなくて癒される笑顔が、…
『柚くん。柚くん』
通りかかるたびに俺を呼ぶ。
オーバーワークで要領が悪くて、変なおっさんに言い寄られていて、あざとい同僚に陥れられているあおいは、昔と変わらない笑顔で、危なっかしくてすぐ赤くなるくせに、俺を呼ばない。
…ホントばか。
寝言で呼ぶくらいなら。
呼べばいつだって。
もうすぐ誕生日なのに無実の自宅謹慎で、
多分、…泣いてる。
奴がWEBを利用していて助かった。
コンピュータの情報量はあなどれない。
銀行が個人情報保護を持ち出して確認に手間取ったけど。
待ってろよ。
絶対、誕生日までには決着をつけてやるから。
すっかり日が落ちた帰り道、洋菓子店のディスプレイにタヌキがいなかった。
代わりにヒヨコが入ったギフトボックスになっている。
無意識のうちに店内に駆け込んだ。
「いらっしゃいませ」
フリルの着いたエプロン姿の店員に、
「あの、店頭に置いてたラテタヌキ、…」
自分でもおかしいほど慌てて問い合わせると、
「…ああ。こちらですか」
奥の方から見慣れたタヌキ入りのボックスを持ってきてくれた。
「本来の組み合わせではないものでしたので、返品しようかと、…」
「それ下さい」
考えるより先に言葉が出ていた。
「…ありがとう!」
ばかなあおいは自分の誕生日を忘れていた。
それでも本気で嬉しそうにクソ可愛い笑顔で俺を見た。
そうやって簡単に笑うくせに。
ムカついたのであおいの頭を軽く殴っておいた。
「飲んでみる?」
ラテタヌキが、マグの中で能天気な笑顔を浮かべて俺を見る。
『柚くん、柚くん』
こいつは素直に俺を呼ぶのに。
タヌキが溶けて甘い。
この恥ずかしいタヌキを買ったのかと思うとちょっと自分を殴りたくもなるけど、
まあ。
『柚くん』
他の奴にとられるのは癪だしな。
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