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柚くんとタヌキ
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キツネに手を振るタヌキ。「またね」
折りたたまれた紙飛行機を広げると、ちょっと笑える。
「なぁヒロ。お前寺田に何かしたの? すげー泣いてたぞ」
中校舎の廊下に立って外を見ていたら、後ろからシンが覆い被さってきた。
「…いや」
紙飛行機をたたんで制服のポケットにしまう。
「寺田って可愛いよなー」
シンが煩わしくぶら下がりながら、嬉しそうに話す。
「小さいし、すぐ真っ赤になるし、ふわふわしてて、笑うとホント最高に可愛いっていうかー」
寺田マユは男子に人気があって、さっき中校舎裏に呼び出された。
「柚木が好きなの。付き合って」
「…ごめん」
「なんで? 好きな人いるの?」
「…まあ」
「誰? 教えてくれたら、諦める!」
「…タヌキ」
で、寺田は捨て台詞を吐いて号泣して立ち去ったわけなんだけど。
「もう俺、修旅で告っちゃおっかなー」
シンが一人で照れて頭を抱えている。
「…そんな可愛い?」
「は? ヒロ、マジか? 学校一っていうか、もうアイドル並みじゃん。可愛くて清楚で口汚いことは言わないしー」
…あいつ、さっき、「クソ馬鹿野郎」って言ってなかった?
修学旅行は奈良・京都へ2泊3日。
法隆寺、奈良公園など奈良は団体で見学し、金閣寺や清水寺などの京都は班別行動で回る。
「柚くん、明日から修学旅行なんだ。楽しいよねー。いいなぁ、また行きたいなぁ」
俺の修学旅行を知って、単純な家庭教師が学習途中で浮き浮きし始めた。
「わらび餅でしょ、豆腐ソフトでしょ、ゴマ団子にぬれおかき。京都の食べ歩き、美味しかったなぁ」
…何しに行ってきたんだよ。
「体験学習でくみひもを作ったんだけど、みんなで好きな人とお揃いのストラップにしたりして」
…。
イラっとしたのであおいの頭を軽く殴っておいた。
あおいがびっくりした顔で俺を見るから見つめ返すと、
「柚くん、問3! 問3だよ!」
急に赤くなって、とっくに終わった問題集をまたやらせようと頑張り始めた。
『小さいし、すぐ真っ赤になるし、ふわふわしてて、笑うとホント最高に、…』
…ばかタヌキ。
修学旅行2日目の夜。
ホテルの中庭にシンが寺田を呼び出していた。
見回りの教師に見つかると、3日目の自由行動が禁止になり、駅で教師と待機することになる。
タヌキの絵を描いた紙飛行機を部屋の窓から投げた。
願いを乗せて星明かりに浮かび、空を切って飛んで行った。
「昨日の夜、部屋を抜け出している生徒がいた。追いかけたが、逃げられた。心当たりのある生徒は正直に申し出なさい。さもないと、全員自由行動禁止にするぞ」
翌朝は教師の説教から始まった。
シンが蒼白な顔をしている。
「…はい。紙飛行機を探しに行きました」
前に出ると、学年全体から注目を浴びた。
「これか」
教師が掲げた紙飛行機にうなずいた。学年の奴らが騒めいていた。
「柚木は、なんで紙飛行機なんか飛ばしたんだ?」
京都駅で、教師と生茶アイスバーを食べた。
「…就職祈願」
「お前んち、姉ちゃんいるんだっけ?」
「…まあ」
…姉ちゃんじゃないけど。
「ヒロ、ホントごめんな。お前のおかげで、寺田と自由行動回れたんだけど、なんか寺田、結構口が悪くてさ、俺、自信なくなってきた」
シンが京都駅に来て神妙な顔をしていたので、生茶アイスをおごってやった。
東京に帰ると、能天気な家庭教師が嬉しそうな顔をして待っていた。
「柚くん、お帰り。どうだった? 何が美味しかった?」
「…生茶アイス」
「あれねー、美味しいよねー」
あおいがあんまり嬉しそうにしているから、
「…食べに行く?」
言うと、あおいは一瞬固まって、
「えっ? ええっ?」
顔を赤くして分かりやすく動揺した。
そのうちに。
お前が行きたいなら。
「はい」
おみやげを渡すと、あおいは満面の笑顔で受け取り、
「ありがとう!」
中を見て、きょとんとした顔になる。
「柚くん、…タヌキが好きなの?」
京都タヌキ饅頭。
『小さいし、すぐ真っ赤になるし、ふわふわしてて、笑うとホント最高に可愛い』
別に。
俺が好きなのは、タヌキじゃない。
折りたたまれた紙飛行機を広げると、ちょっと笑える。
「なぁヒロ。お前寺田に何かしたの? すげー泣いてたぞ」
中校舎の廊下に立って外を見ていたら、後ろからシンが覆い被さってきた。
「…いや」
紙飛行機をたたんで制服のポケットにしまう。
「寺田って可愛いよなー」
シンが煩わしくぶら下がりながら、嬉しそうに話す。
「小さいし、すぐ真っ赤になるし、ふわふわしてて、笑うとホント最高に可愛いっていうかー」
寺田マユは男子に人気があって、さっき中校舎裏に呼び出された。
「柚木が好きなの。付き合って」
「…ごめん」
「なんで? 好きな人いるの?」
「…まあ」
「誰? 教えてくれたら、諦める!」
「…タヌキ」
で、寺田は捨て台詞を吐いて号泣して立ち去ったわけなんだけど。
「もう俺、修旅で告っちゃおっかなー」
シンが一人で照れて頭を抱えている。
「…そんな可愛い?」
「は? ヒロ、マジか? 学校一っていうか、もうアイドル並みじゃん。可愛くて清楚で口汚いことは言わないしー」
…あいつ、さっき、「クソ馬鹿野郎」って言ってなかった?
修学旅行は奈良・京都へ2泊3日。
法隆寺、奈良公園など奈良は団体で見学し、金閣寺や清水寺などの京都は班別行動で回る。
「柚くん、明日から修学旅行なんだ。楽しいよねー。いいなぁ、また行きたいなぁ」
俺の修学旅行を知って、単純な家庭教師が学習途中で浮き浮きし始めた。
「わらび餅でしょ、豆腐ソフトでしょ、ゴマ団子にぬれおかき。京都の食べ歩き、美味しかったなぁ」
…何しに行ってきたんだよ。
「体験学習でくみひもを作ったんだけど、みんなで好きな人とお揃いのストラップにしたりして」
…。
イラっとしたのであおいの頭を軽く殴っておいた。
あおいがびっくりした顔で俺を見るから見つめ返すと、
「柚くん、問3! 問3だよ!」
急に赤くなって、とっくに終わった問題集をまたやらせようと頑張り始めた。
『小さいし、すぐ真っ赤になるし、ふわふわしてて、笑うとホント最高に、…』
…ばかタヌキ。
修学旅行2日目の夜。
ホテルの中庭にシンが寺田を呼び出していた。
見回りの教師に見つかると、3日目の自由行動が禁止になり、駅で教師と待機することになる。
タヌキの絵を描いた紙飛行機を部屋の窓から投げた。
願いを乗せて星明かりに浮かび、空を切って飛んで行った。
「昨日の夜、部屋を抜け出している生徒がいた。追いかけたが、逃げられた。心当たりのある生徒は正直に申し出なさい。さもないと、全員自由行動禁止にするぞ」
翌朝は教師の説教から始まった。
シンが蒼白な顔をしている。
「…はい。紙飛行機を探しに行きました」
前に出ると、学年全体から注目を浴びた。
「これか」
教師が掲げた紙飛行機にうなずいた。学年の奴らが騒めいていた。
「柚木は、なんで紙飛行機なんか飛ばしたんだ?」
京都駅で、教師と生茶アイスバーを食べた。
「…就職祈願」
「お前んち、姉ちゃんいるんだっけ?」
「…まあ」
…姉ちゃんじゃないけど。
「ヒロ、ホントごめんな。お前のおかげで、寺田と自由行動回れたんだけど、なんか寺田、結構口が悪くてさ、俺、自信なくなってきた」
シンが京都駅に来て神妙な顔をしていたので、生茶アイスをおごってやった。
東京に帰ると、能天気な家庭教師が嬉しそうな顔をして待っていた。
「柚くん、お帰り。どうだった? 何が美味しかった?」
「…生茶アイス」
「あれねー、美味しいよねー」
あおいがあんまり嬉しそうにしているから、
「…食べに行く?」
言うと、あおいは一瞬固まって、
「えっ? ええっ?」
顔を赤くして分かりやすく動揺した。
そのうちに。
お前が行きたいなら。
「はい」
おみやげを渡すと、あおいは満面の笑顔で受け取り、
「ありがとう!」
中を見て、きょとんとした顔になる。
「柚くん、…タヌキが好きなの?」
京都タヌキ饅頭。
『小さいし、すぐ真っ赤になるし、ふわふわしてて、笑うとホント最高に可愛い』
別に。
俺が好きなのは、タヌキじゃない。
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