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桐生さんがタクシーの中に身を乗り出して私を見た。

「…橘。幸せでいろよ」

桐生さんの優しい眼差し。
優しい腕。優しい手。
どんな時も、私を支えてくれた。
どんな時も、味方でいてくれた。

何だか胸がいっぱいになる。

「桐生さん、…大好きです!」

勿論、柚くんとは違う好きだけど。
ありがとうじゃ足りなくて。
他に言葉が見つからなかった。

一瞬固まった桐生さんは、こぼれるような笑顔を見せて、

「俺も好きだよ」

たくましい腕を伸ばして私の頭を引き寄せると、頰に優しくキスをした。

「は?」

桐生さんを押しのけて、柚くんがタクシーに乗り込む。

「絶対泣かす。このばかタヌキ」

ご立腹の柚くんに、「ばかタヌキ」分、5回、ゲンコツで頭を小突かれた。

…痛いです。ごめんなさい。


タクシーが夜の街に滑り出す。
窓の外をまばゆい夜景が通り過ぎていく。

後部座席で、柚くんが私の手を取った。

柚くんを、独り占め。

滑らかで心地よい掌。
絡み合う長く綺麗な指。
触れ合う腕から伝わるぬくもり。
交わる体温。溶けだす想い。

柚くんの手。柚くんの指。柚くんの腕。

恋人繋ぎ。

触れる手が心臓になったみたいに高鳴って壊れそうなのに
どこか安心して心地よくて離したくない。

そっと隣の柚くんを伺い見ると、
柚くんの綺麗な瞳がこっちを見ていた。

真っすぐな瞳。
全部見透かされてる。

柚くんが帰ってきてくれた。
私のところに来てくれた。
もう絶対絶対離れたくない。

繋いだ手に力を込めたら、優しく握り返してくれた。
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