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やだ、もう。
触らないでほしい。
身じろぎすることもできないほど圧倒的な力で押さえつけられる。
見た目マッチョだし、鍛えてるって言ってたし。
黒づくめの格好で帽子にマスク。
言われてみればちょっと怪しいけど、人が多すぎて特に違和感がない。
周りの人はほとんどイヤホンやスマホで不快な空間をやり過ごそうとしていて、他人には無関心にならざるを得ない。
ここに逃走犯がいます―――って叫びたいけど口の中に革手袋を押し込まれる勢いでふさがれて、くぐもった声も出せない。
出せてもちょっと鼻息の荒いおばさんにしかならない。
「可哀そうに、ヒロヤクンに置いていかれちゃったね」
カズマさんの息が耳元にかかって嫌悪感から身震いする。
「ウサギチャン、震えてるんだ。可愛いね。大丈夫だよ。大人しくしてたら、ひどいことはしないから」
羽交い絞めにしている指先で二の腕をなでられて吐き気がする。
柚くん…!
手に持ったままのスマートフォンを握りしめると、カズマさんがそれに気づいた。
「…ふーん。ヒロヤクンに筒抜けってわけ。じゃあ、…」
上からカズマさんが覆いかぶさって来て浅黒い顔が目の前に迫る。
すごく嫌な予感がしたけど、どんなに頑張っても動けなかった。
「見せつけてやろうね、ウサギチャン」
圧倒的な力で頭を押さえつけられたまま、マスクをずらしたカズマさんに口をふさがれ、舌先で何かを押し込まれた。
全力で抵抗したけど、何なくこじ開けられて虚しいだけだった。息をするために何かを飲み込んでしまい、吐き出そうとしたけれど強くふさがれていて無理だった。咳き込むのも許されないまま、口をふさがれ続け、ようやく離れた時には手足に力が入らなかった。
何、…飲まされた?
「ウサギチャン、可愛い」
カズマさんがもう一度唇に触れ、本格的に吐きそうなのに吐けない。マスクで顔を隠したカズマさんの嫌な笑い顔が至近距離で目に映る。頭ははっきりしているのに、身体に力が入らない。声も出せない。自分の意志で動けずにカズマさんに支えられていた。
「もうすぐ着くからね」
なだめるように頭をなでられてぞっとするのに動けない。衆人環視の満員電車の中なのに、いいようにされて悔しい。何もできないのが心底悔しい。
今朝。
柚くんが。
せっかくキスしてくれたのに…
触らないでほしい。
身じろぎすることもできないほど圧倒的な力で押さえつけられる。
見た目マッチョだし、鍛えてるって言ってたし。
黒づくめの格好で帽子にマスク。
言われてみればちょっと怪しいけど、人が多すぎて特に違和感がない。
周りの人はほとんどイヤホンやスマホで不快な空間をやり過ごそうとしていて、他人には無関心にならざるを得ない。
ここに逃走犯がいます―――って叫びたいけど口の中に革手袋を押し込まれる勢いでふさがれて、くぐもった声も出せない。
出せてもちょっと鼻息の荒いおばさんにしかならない。
「可哀そうに、ヒロヤクンに置いていかれちゃったね」
カズマさんの息が耳元にかかって嫌悪感から身震いする。
「ウサギチャン、震えてるんだ。可愛いね。大丈夫だよ。大人しくしてたら、ひどいことはしないから」
羽交い絞めにしている指先で二の腕をなでられて吐き気がする。
柚くん…!
手に持ったままのスマートフォンを握りしめると、カズマさんがそれに気づいた。
「…ふーん。ヒロヤクンに筒抜けってわけ。じゃあ、…」
上からカズマさんが覆いかぶさって来て浅黒い顔が目の前に迫る。
すごく嫌な予感がしたけど、どんなに頑張っても動けなかった。
「見せつけてやろうね、ウサギチャン」
圧倒的な力で頭を押さえつけられたまま、マスクをずらしたカズマさんに口をふさがれ、舌先で何かを押し込まれた。
全力で抵抗したけど、何なくこじ開けられて虚しいだけだった。息をするために何かを飲み込んでしまい、吐き出そうとしたけれど強くふさがれていて無理だった。咳き込むのも許されないまま、口をふさがれ続け、ようやく離れた時には手足に力が入らなかった。
何、…飲まされた?
「ウサギチャン、可愛い」
カズマさんがもう一度唇に触れ、本格的に吐きそうなのに吐けない。マスクで顔を隠したカズマさんの嫌な笑い顔が至近距離で目に映る。頭ははっきりしているのに、身体に力が入らない。声も出せない。自分の意志で動けずにカズマさんに支えられていた。
「もうすぐ着くからね」
なだめるように頭をなでられてぞっとするのに動けない。衆人環視の満員電車の中なのに、いいようにされて悔しい。何もできないのが心底悔しい。
今朝。
柚くんが。
せっかくキスしてくれたのに…
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