セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】

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「…あれ? 橘さん?」

うわあ、私のこと覚えててくれた!

柚くんのお父さんは私を認めると親しげな笑顔を見せた。
慌てて深々と頭を下げる。

「ご、…ご無沙汰しております」
「お元気ですか。いや、懐かしいな。紘弥は知っているのかな」

一流企業の代表者という隔たりを全く感じさせない穏やかな物言いは、昔と変わらない。

「橘さんに辞められて、紘弥はだいぶ荒れてましたから。よかったらまた会ってやってくださいね」

「…はい」

柔和な笑みを残して、柚くんのお父さんは役員らしき人たちに囲まれビルの中に入って行った。

…すみません。

息子さんに手を出しました。挙句に逃げました。最低です。
なのにまだ大好きです。
実は今朝キスしてもらいました。

いろいろすみません。ホントすみません。誠心誠意すみません。

後姿に精いっぱいの懺悔をする。

柚くんのお父さん。
すごく温かみがある。
あのお父さんがいたから、今の柚くんがいるわけで、きっと人望もあるんだろう。

ずっと父子家庭で頑張ってきた柚くんが、
お父さんに協力する気持ち、わかるような気がする。

「…あんた、ホントに小悪魔なんだ」

気が付くと、何故か姐さんが小悪魔認定していた。

…違うから!

「なるほどねぇ。7年ぶりの再会か」

帰りがけにコーヒーショップで沙織さんと向かい合って座る。
ぐずぐず言っている私を沙織さんはそっとしておいてくれた。

お父さんを見たら、あの頃の記憶が一気に押し寄せてきて、涙腺が緩んだ。

柚くん。

斜に構えた横顔。心の内を見透かす瞳。
無防備に投げ出す長い脚。ふざけて小突く温かい手。

愛おしい寝顔。
柔らかい髪。形のいい耳。
きめ細かい肌。くすぐったい吐息。
震える指先。優しい唇。

全部覚えてる。

ドアを閉めて外に出てからも涙が止まらなくて
月明かりに照らされた夜道をどこまで歩いても
どこにも行けなかったこと。

凍りついた道で背中を丸めて
行き交う人を眺めていただけの虚無な日々。

「まあ、なくしてから分かることもあるよね…」

コーヒーの芳しい香りと沙織さんのしみじみした声が染みる。

柚くん。

私を見つけてくれてありがとう。
私を諦めないでくれてありがとう。

『ばかはお前だろ。遅すぎるだろ』
『…紘弥はだいぶ荒れてました』

自分のことでいっぱいいっぱいだったけど、あの日柚くんを置きざりにしてしまったことを心の底から後悔した。

柚くんと柚くんのお父さんが難しい立場に立たされているのなら、
私だって協力したい。
要らないって言われても、もう絶対離れないから。
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