セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】

remo

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「へぇ、…」

一瞬の沈黙の後、桐生さんの低い声が聞こえた。恐る恐る桐生さんを伺い見ると、

「…じゃあ俺も行こうかな」

いつも通りの穏やかな表情でそう言った。

「おおっと、これは鋭い切り返し」
「黙れよ、清水」

え、え、え、…

「あ、いや、あの、…」

どうしよう。

いたたまれなくて、冷や汗どころか大汗かいている私の耳に、

「…ああ、その方がいいかも」

予想外の柚くんの返答が届いた。

え、いいの!? いいの!?

「いやぁ、これは斜め上の展開だわ」
「いや、本当だわ」

「ふぅん、いいんだ」

桐生さんが片眉を上げてみせると、柚くんは声を落として囁いた。

「カズマが逃げた」

柚くんのマンションは、最寄駅から徒歩数分の小高い住宅街にあり、案内された部屋は物が少なく、きれいに片づけられていた。

ソファ、リビングテーブル、チェスト。
テレビ、パソコン、DVDプレーヤー。

白と黒が基調のシンプルな部屋は、家庭教師で通っていた頃の柚くんの部屋をほうふつとさせて、なんだか胸が締め付けられる。

私。
柚くんのこと、何にも知らない。

何をしてくるかわからないから、ちゃんと話しておきたい、と柚くんは言った。

柚くんが教えてくれるなら、
何でも知りたい。

「アンドラーシ・ペーテル・カズマは、海外でいくつもの企業からデータを奪ったり改ざんしたりテロ組織に売ったりしている。そいつを、…多分藤倉の誰かが雇った」

恵那さん、…カズマ容疑者が脱走したのは今日の夕刻のことらしい。

それはそうと。

…美味し過ぎます!

帰りに飲み物とご飯を少し買って来たのだけど、

「多分、長くなるから、…」

と言って、柚くんが、手品みたいに素早くおつまみを作ってくれた。

「お前、料理するんだ」

キッチンに立つ柚くんを桐生さんが感心したように見ている。

「…したい時だけ」

たたききゅうり。鶏ひきとごぼうのつくね揚げ。豚コマ唐揚げ。大根もち。もやしの和え物。餃子の皮ピザ。厚揚げステーキ。焼きおにぎり茶漬け。

「柚くん! これ! これ! すごく美味しい」

熱々でもちもちしていて、あんまりにも美味しくてテンションが上がってしまった。
口をふがふがさせながら頬張っていると、柚くんがすごく優しい顔で見ていたので、なんだか恥ずかしくなって黙って噛み締めた。

「…なるほど。したい時、ね」

桐生さんが何かに納得している。

「でも、確かにうまい。嫁に欲しいな」

それな!
桐生さんに激しく同感する。

いいなぁ、奥さんになる人。
と思って、ちょっと胸が軋んだ。
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