50 / 95
second.49
しおりを挟む
私がどんなに柚くんのこと好きか。
柚くんだけ。
どんなにどんなに大好きか。
大好きよりもっと。
言葉に出来ない。この想いを。
何も伝えていない。
震えながら柚くんの唇に口づけた。
涙が溢れて柚くんの滑らかな肌を濡らした。
柚くんがゆっくり目を開けて、焦点が定まらないまま私を見る。
「…っと、…つかまえ、た」
そのまま目を閉じた柚くんは、口元に少しだけ微笑みを浮かべて、
もうどんなに呼んでも揺らしても、決して目を開けなかった。
救急搬送された大学病院では、すぐに地下の緊急手術室に通された。
「ここで待っていて下さい」
幅の広い廊下には簡易なベンチソファが置かれ、白く塗られた壁には所どころに染みがある。
ドアの上に灯る「手術中」の赤いランプが不安をあおる。
座っていられず廊下に立ち尽くしたまま、祈るしかなかった。
扉が閉ざされてから、それほど経たずして、
ふいに赤いランプが消え、手術室の中からスタッフの方々が出てきた。
「あ、…あのっ」
柚くんの様子を知りたくて立ち上がると、
「先生からお話がありますよ」
スタッフの方々はそのまま立ち去り、最後に部屋から出てきた長身の医師が私を認めて近づいてきた。
「あのっ、…あの、どのくらいで治りますか? 跡は残りますか? 命に別状はありませんよね!?」
掴みかからんばかりに詰め寄った私に、「Dr.結城」のネームプレートを下げた医師はその美しい顔を優しく緩めた。
「まあ、…彼女さん次第かな」
か、彼女さん、て誰っ!?
てか、なんかこの美形の先生、ちょっと面白がってない?
私がよく分からないまま結城医師を見上げると、やっぱりどこか笑いを含んだ顔で、
「どうぞ。目、覚ましてますよ」
ぽん、と頭を軽くなでられ、手術室の隣の部屋に案内された。
…なんでしょう、この、仕草一つに色気が漂う感じ。恐るべし、美形、…
安静室らしき部屋はそれほど広くはなく、壁紙とカーテンが温かみのあるベージュで統一され、1台だけ置かれたベットの上に病院の服を着た柚くんが座っていた。
「柚くん!」
私が駆け寄ると、柚くんはちょっとふて腐れたような顔をして横を向いた。
「ま、お大事にね」
結城医師が意味ありげな表情で柚くんに近づくと、バシッと音が鳴るほど強く柚くんの背中をたたいた。
「いって!」
「全く心配ないよ。かすり傷1つ付いてないから」
「…はあ?」
本気で間の抜けた声を上げてしまった。
「ちゃんと自分で説明しろ。彼女ものすごく心配してたぞ。…で、落ち着いたらさっさと帰れ」
結城医師は口調とは裏腹に優しい表情で柚くんを見ると、私に頷いてみせてから部屋を出て行った。
柚くんだけ。
どんなにどんなに大好きか。
大好きよりもっと。
言葉に出来ない。この想いを。
何も伝えていない。
震えながら柚くんの唇に口づけた。
涙が溢れて柚くんの滑らかな肌を濡らした。
柚くんがゆっくり目を開けて、焦点が定まらないまま私を見る。
「…っと、…つかまえ、た」
そのまま目を閉じた柚くんは、口元に少しだけ微笑みを浮かべて、
もうどんなに呼んでも揺らしても、決して目を開けなかった。
救急搬送された大学病院では、すぐに地下の緊急手術室に通された。
「ここで待っていて下さい」
幅の広い廊下には簡易なベンチソファが置かれ、白く塗られた壁には所どころに染みがある。
ドアの上に灯る「手術中」の赤いランプが不安をあおる。
座っていられず廊下に立ち尽くしたまま、祈るしかなかった。
扉が閉ざされてから、それほど経たずして、
ふいに赤いランプが消え、手術室の中からスタッフの方々が出てきた。
「あ、…あのっ」
柚くんの様子を知りたくて立ち上がると、
「先生からお話がありますよ」
スタッフの方々はそのまま立ち去り、最後に部屋から出てきた長身の医師が私を認めて近づいてきた。
「あのっ、…あの、どのくらいで治りますか? 跡は残りますか? 命に別状はありませんよね!?」
掴みかからんばかりに詰め寄った私に、「Dr.結城」のネームプレートを下げた医師はその美しい顔を優しく緩めた。
「まあ、…彼女さん次第かな」
か、彼女さん、て誰っ!?
てか、なんかこの美形の先生、ちょっと面白がってない?
私がよく分からないまま結城医師を見上げると、やっぱりどこか笑いを含んだ顔で、
「どうぞ。目、覚ましてますよ」
ぽん、と頭を軽くなでられ、手術室の隣の部屋に案内された。
…なんでしょう、この、仕草一つに色気が漂う感じ。恐るべし、美形、…
安静室らしき部屋はそれほど広くはなく、壁紙とカーテンが温かみのあるベージュで統一され、1台だけ置かれたベットの上に病院の服を着た柚くんが座っていた。
「柚くん!」
私が駆け寄ると、柚くんはちょっとふて腐れたような顔をして横を向いた。
「ま、お大事にね」
結城医師が意味ありげな表情で柚くんに近づくと、バシッと音が鳴るほど強く柚くんの背中をたたいた。
「いって!」
「全く心配ないよ。かすり傷1つ付いてないから」
「…はあ?」
本気で間の抜けた声を上げてしまった。
「ちゃんと自分で説明しろ。彼女ものすごく心配してたぞ。…で、落ち着いたらさっさと帰れ」
結城医師は口調とは裏腹に優しい表情で柚くんを見ると、私に頷いてみせてから部屋を出て行った。
1
お気に入りに追加
319
あなたにおすすめの小説
社長、嫌いになってもいいですか?
和泉杏咲
恋愛
ずっと連絡が取れなかった恋人が、女と二人きりで楽そうに話していた……!?
浮気なの?
私のことは捨てるの?
私は出会った頃のこと、付き合い始めた頃のことを思い出しながら走り出す。
「あなたのことを嫌いになりたい…!」
そうすれば、こんな苦しい思いをしなくて済むのに。
そんな時、思い出の紫陽花が目の前に現れる。
美しいグラデーションに隠された、花言葉が私の心を蝕んでいく……。
【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
【完結】伯爵の愛は狂い咲く
白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。
実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。
だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。
仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ!
そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。
両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。
「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、
その渦に巻き込んでいくのだった…
アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。
異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点)
《完結しました》
不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする
矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。
『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。
『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。
『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。
不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。
※設定はゆるいです。
※たくさん笑ってください♪
※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!
捨てる旦那あれば拾うホテル王あり~身籠もったら幸せが待っていました~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「僕は絶対に、君をものにしてみせる」
挙式と新婚旅行を兼ねて訪れたハワイ。
まさか、その地に降り立った途端、
「オレ、この人と結婚するから!」
と心変わりした旦那から捨てられるとは思わない。
ホテルも追い出されビーチで途方に暮れていたら、
親切な日本人男性が声をかけてくれた。
彼は私の事情を聞き、
私のハワイでの思い出を最高のものに変えてくれた。
最後の夜。
別れた彼との思い出はここに置いていきたくて彼に抱いてもらった。
日本に帰って心機一転、やっていくんだと思ったんだけど……。
ハワイの彼の子を身籠もりました。
初見李依(27)
寝具メーカー事務
頑張り屋の努力家
人に頼らず自分だけでなんとかしようとする癖がある
自分より人の幸せを願うような人
×
和家悠将(36)
ハイシェラントホテルグループ オーナー
押しが強くて俺様というより帝王
しかし気遣い上手で相手のことをよく考える
狙った獲物は逃がさない、ヤンデレ気味
身籠もったから愛されるのは、ありですか……?
好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。
石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。
すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。
なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。
自信家CEOは花嫁を略奪する
朝陽ゆりね
恋愛
「あなたとは、一夜限りの関係です」
そのはずだったのに、
そう言ったはずなのに――
私には婚約者がいて、あなたと交際することはできない。
それにあなたは特定の女とはつきあわないのでしょ?
だったら、なぜ?
お願いだからもうかまわないで――
松坂和眞は特定の相手とは交際しないと宣言し、言い寄る女と一時を愉しむ男だ。
だが、経営者としての手腕は世間に広く知られている。
璃桜はそんな和眞に憧れて入社したが、親からもらった自由な時間は3年だった。
そしてその期間が来てしまった。
半年後、親が決めた相手と結婚する。
退職する前日、和眞を誘惑する決意をし、成功するが――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる