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「では今日はここまでにしましょう。どうもお疲れさまでした」
加藤さんの声に、一同そろって頭を下げる。
終わった―――――っ
不安しかなかった会計監査。
とりあえず初日は無事クリア。
まあ直しはいっぱいあるんだけど、ひとまず終わったから良し。
後の3日間もこの調子でいけば何とかなるかな。
監査法人の皆様も長居する気は毛頭ないらしく、いそいそと帰り支度をしている。
沙織さんも恵那さんも、ウソかホントか反応に困ることはあったけど、だからと言って何事も起こらず、居心地が悪いだけで終わってよかった。
「それじゃあ、橘さん、失礼します」
ドア口に立ち、一礼して会議室を出て行く皆様をお見送りする。
通路の向こうに後姿が見えなくなってから、おもむろにドアを閉めた。
あー、良かった。
ほっとしてそのままへたり込み、ちょっとだけ休んでから片付けよう、と思っていたところで、外からドアノブが回った。
「忘れ物しちゃったぁ、ウサギチャン」
素早く中に入ってきた恵那さんが、後ろ手に会議室のドアを閉める。
続いて、鍵のかかる音がした。
心臓が凍りついた。
床に座り込んだまま、後ずさる。が、そんな微々たる動きは瞬時に跳躍してきた恵那さんに封じられた。
黒い革手袋をはめた恵那さんは、私に馬乗りになり、両腕を頭上に拘束すると
「い~い眺め」
口元に不気味な笑みを刻みながら、舌なめずりをする獣そのものに舌でゆっくりと唇をなぞった。
革手袋で乱暴に私の顎をつかむ。
「ボクねぇ、ヒロヤクンのこと嫌いなんだよねーぇ。平然と何でも手に入れちゃって、そのくせ何にも興味ないみたいにスカしちゃってさー」
恵那さんの手が首に降りてくる。指先で首筋をなぞられて、恐怖と気持ちの悪さで吐き気がした。
「あのアタマ空っぽのおヨメさん? いいこと教えてくれたよねぇ。こんなところにヒロヤクンのアキレス腱があったなんてーぇ」
下から喉を締め上げられて、息が出来なくなる。苦しくて、生理的な涙が込み上げる。
「アンタをめちゃくちゃにしたら、どんな顔するかなーぁ」
恵那さんが狂ったような甲高い笑い声をあげた。
声は違っていたけれど、倉庫の笑い声と同じに聞こえた。
「そんな大層な中身とも思えないけどぉー」
恵那さんの手が首から離れ、胸元にかかった。
気道が空気を求めて音を鳴らし、苦しくて咳き込んだ。
恵那さんがブラウスのボタンを外すと全身に鳥肌が立って、逃れようと必死でもがいた。
…柚くん!
多分、今、柚くんは来ない方がいいのに。
この人の目的は柚くんなのに。
柚くんしか思い浮かばなかった。
加藤さんの声に、一同そろって頭を下げる。
終わった―――――っ
不安しかなかった会計監査。
とりあえず初日は無事クリア。
まあ直しはいっぱいあるんだけど、ひとまず終わったから良し。
後の3日間もこの調子でいけば何とかなるかな。
監査法人の皆様も長居する気は毛頭ないらしく、いそいそと帰り支度をしている。
沙織さんも恵那さんも、ウソかホントか反応に困ることはあったけど、だからと言って何事も起こらず、居心地が悪いだけで終わってよかった。
「それじゃあ、橘さん、失礼します」
ドア口に立ち、一礼して会議室を出て行く皆様をお見送りする。
通路の向こうに後姿が見えなくなってから、おもむろにドアを閉めた。
あー、良かった。
ほっとしてそのままへたり込み、ちょっとだけ休んでから片付けよう、と思っていたところで、外からドアノブが回った。
「忘れ物しちゃったぁ、ウサギチャン」
素早く中に入ってきた恵那さんが、後ろ手に会議室のドアを閉める。
続いて、鍵のかかる音がした。
心臓が凍りついた。
床に座り込んだまま、後ずさる。が、そんな微々たる動きは瞬時に跳躍してきた恵那さんに封じられた。
黒い革手袋をはめた恵那さんは、私に馬乗りになり、両腕を頭上に拘束すると
「い~い眺め」
口元に不気味な笑みを刻みながら、舌なめずりをする獣そのものに舌でゆっくりと唇をなぞった。
革手袋で乱暴に私の顎をつかむ。
「ボクねぇ、ヒロヤクンのこと嫌いなんだよねーぇ。平然と何でも手に入れちゃって、そのくせ何にも興味ないみたいにスカしちゃってさー」
恵那さんの手が首に降りてくる。指先で首筋をなぞられて、恐怖と気持ちの悪さで吐き気がした。
「あのアタマ空っぽのおヨメさん? いいこと教えてくれたよねぇ。こんなところにヒロヤクンのアキレス腱があったなんてーぇ」
下から喉を締め上げられて、息が出来なくなる。苦しくて、生理的な涙が込み上げる。
「アンタをめちゃくちゃにしたら、どんな顔するかなーぁ」
恵那さんが狂ったような甲高い笑い声をあげた。
声は違っていたけれど、倉庫の笑い声と同じに聞こえた。
「そんな大層な中身とも思えないけどぉー」
恵那さんの手が首から離れ、胸元にかかった。
気道が空気を求めて音を鳴らし、苦しくて咳き込んだ。
恵那さんがブラウスのボタンを外すと全身に鳥肌が立って、逃れようと必死でもがいた。
…柚くん!
多分、今、柚くんは来ない方がいいのに。
この人の目的は柚くんなのに。
柚くんしか思い浮かばなかった。
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