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「で、桐生はどう?」

食後のコーヒーを頂いているところで、沙織さんから何の前触れもなく話を振られた。

「え、…どう、ですか?」

どうって何? どうって!
何をどう答えりゃいいっちゅーねん。

などという突っ込みは勿論できず、動揺を隠せずにいると、加藤さんが身を乗り出してきた。

「桐生、って沙織さんの旦那さん?」
「元、ね。この娘が好きだからって振られたわ」

ぶえっふぉ―――――っ

飲みかけのコーヒーを派手に吹いた。
ね、姐さん、あけすけ過ぎやしませんか。

「あらやだ、大丈夫?」

私が激しくむせていると、恵那さんが手を伸ばして背中をさすってくれた。
いや、それはそれで怖い。

「桐生、優しいでしょ。仲良くやってる?」
「は、…いや、…はあ」

しどろもどろに相槌を打つと、

「え、やだ。もしかして焦らしてるの? あんたその顔で小悪魔気どり?」

沙織さんはその整った顔を曇らせた。

…えーっと、なんか、さらっと悪口入ってます?

「へえー、モテるんだね、ウサギチャン」

背中に置かれていた恵那さんの手がいつの間にか上に上がり、肩を抱かれたような状態になっている。

「ウサギチャンって何よ。恵那、あんたもこの娘が気に入ったの?」
「はい。とぉっても。可愛くって食べちゃいたいですよねぇ、ウサギチャン」

ぞっとした。
実際に震えて、それが恵那さんに伝わったかもしれなかった。
恵那さんはにこやかな笑みを向けてくるが、目が笑っていない気がする。瞳の奥に底知れぬ闇が潜んでいる気がする。

「ふぅん。僕は沙織さんの方が好きだけどなぁ」
「あら、ありがと、加藤さん。でも、いいの。100%あたしを愛してくれる男じゃなきゃいらないわ」

姐さん、かっこええ。

っていうか、加藤さんの告白、秒殺されたような。

加藤さんは恨みがましい目を沙織さんに向けてコーヒーをすすっている。

「そろそろ、行きましょ」

沙織さんは立ち上がると、ヒールを鳴らして颯爽と歩き始めた。
テーブルを後にして、恵那さんの手が離れたので、正直ほっとした。でも帰り道、気が付けば隣に並んでいた。

倉庫の一件は、柚くんと関係ありそうだったから、…

「あの、恵那さん、ってこのお仕事長いんですか?」

さりげなく探りを入れてみた。が。

「ん~? 結構長いかな。ウサギチャン、ボクに興味あるんだ?」

いえ、ないです。全然ないです。
むしろ、恐怖しかないです。

ますますドツボにはまっていくような気がした。
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