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「藤倉グループの現総代が、…美雨の祖父に当たるんですけど、紘弥くんと美雨の結婚を決めてグループの統合と安定を図ろうとしたようなんですが、…」
「紘弥はあたしと結婚するんです!」
美雨さんが真っ赤に泣き腫らした目で私を見据えた。
その底に渦巻く感情が見えない刃となって私を切りつける。
美雨さんの剣幕に何の反応も出来ない私と違って、
「ふぅん、…結婚するんだ」
桐生さんが何やら冷静な突っ込みを入れている。
美雨さんは一瞬鋭い視線を桐生さんに投げて、
「とにかくっ! 紘弥はあんな会社に就職したり、変な横領事件に関わったりしてる場合じゃないんです! 紘弥を返して下さい!」
膝立ちになって机を叩き、高貴そうな器が音を立てて揺れた。
「美雨、落ち着きなさい」
氷室さんが息を喘がせている美雨さんをなだめるように背中をなでる。
「…それ、橘にお願いすること?」
なんとなく打ちのめされた気分の私を見透かしているのか、桐生さんは優しく私の頭に手を置くと、ゆっくりと美雨さんに投げかけた。
「どこで何をするかは、藤倉が自分で決めるんじゃないの?」
「…だって、紘弥はあたしの…っ!」
美雨さんの栗色の瞳にまた大粒の涙があふれる。
「俺だったら、…好きな人には幸せでいて欲しいと思うけどね」
…あ。
頭の上に置かれた桐生さんの大きな手から、計り知れない愛情があふれて私を包んだ。
「ま、…っ」
美雨さんは栗色の瞳を瞬かせて涙をハラハラと落とすと、
「また、危険な目に遭っても知らないから!」
捨て台詞を残して部屋を飛び出した。
「美雨、待ちなさい!」
氷室さんが美雨さんを追いかけようと立ち上がる。
「申し訳ありません、失礼なことを言って。あの娘もいろいろ複雑で…。あの、良かったらゆっくりしていってください」
私たちに頭を下げて、氷室さんも部屋を出て行き、高級料亭の個室に桐生さんと取り残された。
「紘弥はあたしと結婚するんです!」
美雨さんが真っ赤に泣き腫らした目で私を見据えた。
その底に渦巻く感情が見えない刃となって私を切りつける。
美雨さんの剣幕に何の反応も出来ない私と違って、
「ふぅん、…結婚するんだ」
桐生さんが何やら冷静な突っ込みを入れている。
美雨さんは一瞬鋭い視線を桐生さんに投げて、
「とにかくっ! 紘弥はあんな会社に就職したり、変な横領事件に関わったりしてる場合じゃないんです! 紘弥を返して下さい!」
膝立ちになって机を叩き、高貴そうな器が音を立てて揺れた。
「美雨、落ち着きなさい」
氷室さんが息を喘がせている美雨さんをなだめるように背中をなでる。
「…それ、橘にお願いすること?」
なんとなく打ちのめされた気分の私を見透かしているのか、桐生さんは優しく私の頭に手を置くと、ゆっくりと美雨さんに投げかけた。
「どこで何をするかは、藤倉が自分で決めるんじゃないの?」
「…だって、紘弥はあたしの…っ!」
美雨さんの栗色の瞳にまた大粒の涙があふれる。
「俺だったら、…好きな人には幸せでいて欲しいと思うけどね」
…あ。
頭の上に置かれた桐生さんの大きな手から、計り知れない愛情があふれて私を包んだ。
「ま、…っ」
美雨さんは栗色の瞳を瞬かせて涙をハラハラと落とすと、
「また、危険な目に遭っても知らないから!」
捨て台詞を残して部屋を飛び出した。
「美雨、待ちなさい!」
氷室さんが美雨さんを追いかけようと立ち上がる。
「申し訳ありません、失礼なことを言って。あの娘もいろいろ複雑で…。あの、良かったらゆっくりしていってください」
私たちに頭を下げて、氷室さんも部屋を出て行き、高級料亭の個室に桐生さんと取り残された。
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