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柚くんの心臓の音が聞こえる。

柚くんの身体に包み込まれて、柚くんの温かさを感じる。
柚くんが肩で息をするたびに、髪の後ろに吐息を感じる。

柚くんの匂い。体温。力強さ。
柚くんの鼓動。感触。腕の中。

どうして。
恐怖心が跡形もなく消え失せて、
世界で一番安心できる場所になる。

「…あおい」

どうして。
柚くんが呼ぶと自分の名前が
世界で一番大切なものみたいに聞こえるんだろう。

どうして。
柚くんのきれいな瞳に見つめられると
時間も場所もすべてを超えてしまうんだろう。

伸ばされた柚くんの手のひらが私の頬に触れて
かすかに震える指の背が涙をぬぐった。

柚くんの瞳に映る私は、
壊れたみたいに涙が止まらなくて
柚くんの綺麗な指先を濡らし続けていた。

柚くんは少し困ったみたいにその長いまつ毛を瞳に落とし、
身をかがめて斜めに私の顔をのぞき込んだ。

柚くんの柔らかい髪が額をくすぐる。
柚くんのきめ細かい綺麗な顔が近づく。

ほんの一瞬。
柚くんの桜色の柔らかな唇が涙に触れた。

「…ごめん」

少し掠れた甘い声が吐息みたいに言葉をつむぐ。
涙の膜の向こうで、柚くんがゆらゆら揺れる。

「アイツに何された?」

柚くんの問いに黙って首を振る。

柚くんは静かに手を伸ばして、つかまれた顎を親指でそっとなでた。

柚くんの綺麗な瞳が揺れていた。
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