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だから。

翌日会社で柚くんの姿を見たら、それだけで安心して座り込みそうになってしまった。

「藤倉くん、美雨ちゃん大丈夫なのー?」
「ああ、はい。仕事は少し休むみたいですけど、元気です」
「大事に至らなくて良かったね。犯人早く捕まるといいけど」
「…ですね」

柚くんの声がする。柔らかい髪が躍る。
長いまつ毛が瞬いて揺れる。綺麗な指先が動く。

柚くんの長い脚が床を横切って、

「なに?」

いつの間にか至近距離でのぞき込まれた。
ガ、ガン見してたの、ばれてる!

「俺がいなくてさみしかった?」

柚くんの少し掠れた甘い声が耳にかかる。

ななな、…!!
どこでこんな小技覚えた―――!?
しかも、図星―――――っ

寝不足の三十路オンナに気の利いた反応などできるはずもなく、不意打ちのわんこテクにあえなく陥落。
身体中の熱を顔に集めて固まった。

「…ばか」

柚くんのグーが頭をかすめる。

一瞬、柚くんの爽やかな柑橘の匂いを感じて足の力が抜けてしまい、気力でデスクまでたどり着くと椅子に倒れ込んだ。

む。無理。
柚くん、破壊力半端ない。
ギブですわ、ギブ。
机に突っ伏して頭を振る。

「…補佐、楽しそうですね」
「あ、谷くん。おはよう」

…先輩の威厳はどこにもない。

しかしながら、現金な私は絶好調に仕事がはかどり、

「清水さん、このチェック午前中ね」
「谷くん、これグラフ化お願い」
「課長、会議資料目を通しておいてくださいね」

「とばしてんなー」
「見習って、清水さん」
「黙れよ、谷」

爽快感抜群でお昼休みを迎えた。

「ちょい休憩」

控室にて。
お弁当を片付けた柚くんがぱたりと机に倒れ込んだ。

伏せられた目の先で、長いまつ毛が揺れる。
きめ細かい肌。桜色の唇。規則正しい寝息。

うわー、わー、わー、わー

脳内でオトメあおいが歓喜の舞を踊り出す。
柚くんの寝顔を拝めるなんて。
神様、グッジョブ!

しゃ、…写真。
そわそわとスマートフォンを触り始めた右手を精いっぱいの自制心で戒めて、そっと眺める。

柚くん。疲れてるのかな。

美雨さんが怪我したり、心配したり、いろいろあるんだろうな。
…柚くんの役に立てることがあればいいのに。

柚くんの寝顔を独り占めしていたら、

「橘補佐ー、すみません。業者さんが納品確認お願いしたいから倉庫に来てほしいってー」

受付から呼ばれた。

「…へーい」

至福の時間を中断させられ、しぶしぶ倉庫に走り、

「お待たせしましたー」

不機嫌に扉を閉めたところで、カチリと鍵がかかったかと思うと、一切の電源が落ち、目の前が暗闇に閉ざされた。
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