29 / 95
second.28
しおりを挟む着せ替え人形というのはとても大変なんだと改めて思い知った。
「きゃあ!これも素敵ですわ」
「店長、やはりお色は華やかにされた方が」
「髪飾りも華やかなものにしなくては」
私と年齢が変わらない女性達が囲み楽しそうだった。
「それにしてもなんて艶やかな髪なのでしょう」
「本当に絹のようですわ」
「そう…ですか?最近は手入れを怠っていたので」
私の髪を結ってくれる髪結師である女性が目を見開く。
まるで獲物を見つけたような表情で少し怖くなったのだ。
「これで手入れを怠った?」
「ちなみにだけど、三年前の写真よ」
「お嬢様!」
隣でお嬢様が写真を取り出す。
常に持ち歩いていたなんて初めて知ったわ。
「まぁ、なんて美しい御髪。それにお肌も…」
「もちろん加工だってしてないし、こっちはメイクしてないわ」
「止めてくださいお嬢様!そんなノーメイクの写真…っていうか、いつの間に」
そういえば伯爵家ではやたらとカメラマンが出入りしていた気がする。
旦那様が日々、お嬢様の成長を映像に残したいとか言っていらしたのを思い出す。
「まぁ、なんて美しい御髪なのかしら」
「どうしたらこんな綺麗な髪を…」
よく見ると髪結師の髪は綺麗に染めているけど艶がない。
平民に限らず下級貴族の間では髪を美しく見せる為に染めたり巻いたりするけど、その所為で髪が痛む。
キューティクルとはいいがたい髪質だ。
「フンッ!この私の自慢の髪も先生に手入れをしていただいたのよ」
くるりと回りながら髪を翻すお嬢様。
まるでモデルのショーを見ているようだった。
「一体どんな香油をお使いに?」
「香油…」
そうだった。
一昔前は香油を使っていた。
現在は石鹸を使い洗髪した後に髪の毛を美しく見せる為に薬草を使って艶を出していた。
ただし艶が綺麗にでるわけではない。
「私が使っているのは香油ではなく果物を使ったシャンプーで汚れを落としています。その後にリンス―を使っていまして…」
通常とは少しヘアケアの仕方が違う。
ここ最近はヘアケアを怠っているけど。
「やはり高位貴族の方は違いますわね」
「え?」
「私は数多のご令嬢、ご夫人を見てまいりましたが。立ち振る舞いや所作で育ちが解りますわ。何よりティンファニー伯爵家の家庭教師となれば相応の身分の方かと」
「いえ…」
嘘でしょ?
ティンファニー伯爵家って、そこまですごかったの?
何代も続く貴族とは聞いていた。
実際親族が皇室に入ったと聞いていたけど。
旦那様自身は関係ないと言っていらしたし。
「伯爵様も潔癖症な所がありますし…使用人は古くから仕えているもの以外は拒絶されてますわ」
「仕方ありませんわよ。ティンファニー伯爵家と繋がりを持ちたい方は多いですから」
「これ!無礼でしょう」
若い髪結師や化粧師がきゃあきゃあと話していたがオーナーが咎める中私は眩暈がした。
知らなかったからだ。
だって気さくで優しい方で。
失礼だけど優しい兄のように慕っていたもの。
行儀見習いだった時に出会い、良くしてくださったから。
そんな風に思わなかった。
1
お気に入りに追加
318
あなたにおすすめの小説



隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?
キミノ
恋愛
職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、
帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。
二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。
彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。
無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。
このまま、私は彼と生きていくんだ。
そう思っていた。
彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。
「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」
報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?
代わりでもいい。
それでも一緒にいられるなら。
そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。
Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。
―――――――――――――――
ページを捲ってみてください。
貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。
【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる