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柚くんが身じろぐ。柚くんがペンを持つ。
柚くんが首を傾げる。柚くんがマウスを動かす。
柚くんが横を向く。柚くんが立ち上がる。
1秒ごとに呼吸が止まる。
髪の先まで全身全霊で斜め前のデスクに座る柚くんの気配を感じて、
1ミリも動けない。
「主任、総務からお電話です」
声も出せない。
「主任、ここの数字これで合ってます?」
画面も見れない。
…死ぬ。
「藤倉くん、できた? わかる? 先輩に何でも聞いてね」
むしろ清水さんになりたい。
「清水さん、教えられることあるんですか」
「…黙れよ、谷」
本気で死ぬ。酸素が薄すぎて死ぬ。
「藤倉くん、お昼一緒に行こ~」
やっとお昼休みになったものの、
「あ、…弁当持ってきたんで」
いきなり胸を刺される。…愛妻弁当ですか。
給湯室隣の控室。
後ろから柚くんがついてきている気がして手足がぎくしゃくする。
「ここで食べていいの?」
う、…
背後から柚くんの声がかかり、心臓が掴まれる。
その甘い声でしゃべるの、やめて欲しい。
「え、…は、…まあ」
いつもどおりテーブル角の席を陣取ると、あろうことか柚くんが隣に座る。
隣!?
ぎょっとして振り仰ぐと、涼しい表情の柚くんと目が合った。
心なしか面白そうな顔をしているような気もする。
落ち着け、あおい。動じたら負けよ。
自分に言い聞かせて、鉄板のコンビニおむすびと野菜ジュースを取り出した。
「コンビニおにぎりですか、橘主任?」
明らかにからかい口調の柚くん。
首を傾げた拍子に柔らかい髪の毛がふわりと揺れる。
その綺麗な瞳でこっち見ないでほしい。
ていうか、のぞき込まないでほしい。近いから!
「ああ~、藤倉くん。橘ちゃんはね、ずっとシャケおにぎりなの。花嫁資金貯めてるから。も~、良かったらもらってあげてよ」
黙れよ、真鍋。
どうでも良かった真鍋部長のお昼チェックに、この時ばかりは殺意がわいた。
「へぇ」
柚くんが横目で私を見てから、お弁当の包みをほどく。
もうやだ、なにこの公開処刑。
ごはん、しめじと人参のそぼろ炒め、ポテトサラダ、ミニトマト、
鶏肉と根菜のうま煮、ほうれん草のベーコン巻き。
なんですか、美人な奥さんは料理も上手ですか。
やさぐれた気分で野菜ジュースにストローをつき刺すと、
「じゃあ、はい。あーん」
柚くんがお箸でつかんだ鶏肉とレンコンを私に向けた。
「なっ!いっ、…いらないよっ」
何が悲しくて愛妻弁当をお裾分けされなきゃならないの。
動揺して、語気が荒くなってしまった。
「俺、結構料理できるよ? 弁当作ってあげようか」
な。何言ってんの、この妻帯者が!
柚くんが首を傾げる。柚くんがマウスを動かす。
柚くんが横を向く。柚くんが立ち上がる。
1秒ごとに呼吸が止まる。
髪の先まで全身全霊で斜め前のデスクに座る柚くんの気配を感じて、
1ミリも動けない。
「主任、総務からお電話です」
声も出せない。
「主任、ここの数字これで合ってます?」
画面も見れない。
…死ぬ。
「藤倉くん、できた? わかる? 先輩に何でも聞いてね」
むしろ清水さんになりたい。
「清水さん、教えられることあるんですか」
「…黙れよ、谷」
本気で死ぬ。酸素が薄すぎて死ぬ。
「藤倉くん、お昼一緒に行こ~」
やっとお昼休みになったものの、
「あ、…弁当持ってきたんで」
いきなり胸を刺される。…愛妻弁当ですか。
給湯室隣の控室。
後ろから柚くんがついてきている気がして手足がぎくしゃくする。
「ここで食べていいの?」
う、…
背後から柚くんの声がかかり、心臓が掴まれる。
その甘い声でしゃべるの、やめて欲しい。
「え、…は、…まあ」
いつもどおりテーブル角の席を陣取ると、あろうことか柚くんが隣に座る。
隣!?
ぎょっとして振り仰ぐと、涼しい表情の柚くんと目が合った。
心なしか面白そうな顔をしているような気もする。
落ち着け、あおい。動じたら負けよ。
自分に言い聞かせて、鉄板のコンビニおむすびと野菜ジュースを取り出した。
「コンビニおにぎりですか、橘主任?」
明らかにからかい口調の柚くん。
首を傾げた拍子に柔らかい髪の毛がふわりと揺れる。
その綺麗な瞳でこっち見ないでほしい。
ていうか、のぞき込まないでほしい。近いから!
「ああ~、藤倉くん。橘ちゃんはね、ずっとシャケおにぎりなの。花嫁資金貯めてるから。も~、良かったらもらってあげてよ」
黙れよ、真鍋。
どうでも良かった真鍋部長のお昼チェックに、この時ばかりは殺意がわいた。
「へぇ」
柚くんが横目で私を見てから、お弁当の包みをほどく。
もうやだ、なにこの公開処刑。
ごはん、しめじと人参のそぼろ炒め、ポテトサラダ、ミニトマト、
鶏肉と根菜のうま煮、ほうれん草のベーコン巻き。
なんですか、美人な奥さんは料理も上手ですか。
やさぐれた気分で野菜ジュースにストローをつき刺すと、
「じゃあ、はい。あーん」
柚くんがお箸でつかんだ鶏肉とレンコンを私に向けた。
「なっ!いっ、…いらないよっ」
何が悲しくて愛妻弁当をお裾分けされなきゃならないの。
動揺して、語気が荒くなってしまった。
「俺、結構料理できるよ? 弁当作ってあげようか」
な。何言ってんの、この妻帯者が!
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