セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】

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手持ちの現金があまりないけど、お支払いはどうしたらいいんだろう。
終電がなくなりそうなんだけど、皆さんタクシーで帰るんでしょうか。

湧き上がる疑問が頭の中をぐるぐる回り、上げ続けた口角が攣りそうになっている。

そんな私を見透かしたように、隣に座る桐生さんが時折優しい目を向け、頭に手を置く。

桐生さんの気遣いは有難いのだけれど、その度に前方の結子さんから見えないナイフが飛んできて寿命が縮む。

「それで、あの、綺麗な奥さんは元気?」

常務はだいぶお酒が回ってきたようで、赤ら顔で声が大きい。

「…ええ、まあ」

結子さんが桐生さんの手元を見つめている。

そういえば。
桐生さん、指輪してないな。

ぼんやりと常務を見ると、常務の指にも指輪がない。

まあ、指輪しない人もいるよね、と思いつつ。

柚くんは。

私がぶちまけた月見そばをテキパキと片付けてくれた長くて綺麗な指に。

指輪、してたっけ。

していなかったような気もするけれど、入社前のガイダンスに、そもそも指輪なんてしてこないかもしれない。

藤倉紘弥、か。

甘口の日本酒なのに、飲み込むとなぜか喉の奥がヒリヒリした。

「ゆうこ、今日はどこに泊まるんだ?」
「ホテルハイアットです。明日朝一番の飛行機に乗りますので」
「…うん」

常務の呂律が怪しくなっている。
結子さんは慣れた様子で常務の世話を焼き、勘定を済ませた。
会計は常務持ち、らしい。

お店を出る前にトイレに寄らせてもらうと、音もなく結子さんが近づいてきて、

「絶対に奪うから」

短く宣言して出て行った。

今のは、…桐生さんの奥様に対する?
それとも…

美しくて可愛らしい結子さんの知りたくなかった一面を見せつけられ、もはやため息しか出ない。

タクシーに乗り込む時には、常務は足元がおぼつかなくなっていて、甘えるように結子さんの肩を抱いていた。

「…男ってずるいよな」

夜の街を滑るように走り去るタクシーを見送りながら、桐生さんがつぶやく。

「え?」

振り仰ぐと既に甘い笑顔に変わっていて、

「帰るか」

するりと指を絡められた。 

異なる体温が混ざり合う。

ひんやりとした大きな掌。骨ばった指。
かすかに触れる腕時計の硬さ。

隙間なく組み合わされたお互いの指。
触れ合う腕から伝わるぬくもり。

「え、…あ、…」

ふいに桐生さんと繋がって、動けなくなる。
急激に熱が上がり、心臓がおかしいくらい鳴っている。
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