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「だからねっ、結子さんが可愛すぎるんですぅ~」

「はは、分かったって。早川、まだ秘書課で頑張ってんだな」

久しぶりの桐生さんが嬉しくて、串揚げもお酒も美味しくて、すっかり飲み過ぎてしまった。

「結子さん、桐生さんが帰って来てくれること、すごく喜んでたんですよ。今日、連絡つかなくて残念だなぁ…」

「橘は? お前も嬉しい?」

「もちろんじゃないですかぁ。今日はフロア中、桐生さんの噂で持ちきりで、…」

「俺もまたお前に会えて嬉しいよ」

あれ、…

カウンターで隣に座る桐生さんの声がすぐ耳元で聞こえる気がする。

桐生さんの長い指が、私の髪をすいている気がする。

「お前がまだ、…………良かった」

私ったら、もしかしてもしかして、桐生さんにもたれかかったりしてるんじゃ、…っ!

急いで体勢を立て直したら、視界が回った。

「大丈夫か、橘? そろそろ出る?」
「…あい」

…情けない。

ゆらゆらと、意識が漂う。
まといつく夜の空気。流れるネオン。
まだ肌寒い3月。立ち昇る呼気。包まれる温かさ。

久しぶりに懐かしい桐生さんに会って。
美味しいお酒と料理を食べて。
支えてくれる身体と甘やかしてくれる腕があって。
なんだかとっても安心して。

ずっと乾いていた私を
低音ボイスと甘い唇がたどる。
大きな手が優しくなでる。

包まれて。温かくて。泣きたくなって。

一度だけ、犯した罪の夜がよみがえる。
地獄に落ちてもいいから。
全てを失ってもいいから。
全身で全力で抱きしめた。
愛しい君の。

「…ゆず、く、…」

名前。





よだれが垂れそうになって、急いで目を開けた。

え。

目の前に迫る顎のアップは。

ええ。

形のいい唇と鼻のラインは。

桐生さん!?

慌てて飛び起きると掛け布団と桐生さんの腕がはらりと落ちた。

わ、わ、私、桐生さんを踏みつぶして、…っていうか、
これは、いわゆる、う、う、腕枕というやつでは、…

というか、桐生さんと一緒に寝、…!!

頭がガンガンして、気分も悪くて、何も考えられない。

けれど。

「あ、…おはよ、橘」

濃く縁取られた瞼の下の黒い瞳が、私を捉えて甘く微笑む。

いや―――、無理っ
なにこの色気。
っていうか、何で一緒に寝てるの!?
っていうか、
っていうか、

「…吐く―――、っ」
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