7 / 41
1章.告白ミッション
07.
しおりを挟む
「こんな感じ」
ななせは普通に隣に立って、小首を傾げて私を見ると、
「大丈夫だろ」
片腕で抱えたままの私の肩を押して歩くよう促すから、私の両足もやむを得ず一歩一歩先へ進む。
「あ、…うん。そう、…ですね」
語尾が不自然に小さくなる。
ぎくしゃくと足を繰り出しながら動揺するのもおかしい気がして必死で頷く。
うん。まあ。そうか。
大丈夫。大丈夫ならいいんだ。
心臓も混乱してドキドキしていいのか落ち着くべきなのか悩んだ挙句にこっそりツーステップを踏んだ。
「…俺の角煮、無事?」
ツーステップにはまるで関心がないらしいななせが、斜め上から見下ろしてくる。
かっく。かっく。かっくにー。
心臓がツーステップで歌い出す。
そういえば、朝から宣言して出たんだっけ。
「…ななせ、もしかして、角煮を迎えに来た?」
「…だって心配じゃん?」
ななせは悪びれずに言い放つと、あー、お腹空いた、とつぶやいた。
その横顔を見ていたら、何だかいろいろ力が抜けた。
何はともあれ頑張った。頑張ったよ、私。
同じ相手に4度目の告白だけど。
何度目だって同じ相手だって、いつも。死にそうな気持ちになるんだよ。
「…もやしのナムルを付けて進ぜよう」
「やりっ」
嬉しそうなななせを見ると嬉しくなる。
ななせが料理を食べてくれると安心する。
暗い空にオレンジ色の月が微笑みながらこっちを見ていた。
はずだったのに。
「ぬるいっ、ぬるいっ、ぬる過ぎるっ‼︎ 今時小学生だってもっと進んどるわっ‼」
翌日大学で顔を合わせたセレナによって私の決死の告白はぶった切られた。
「ほっぺにちゅうぅ? どこのお子様ですか? また、ありがとう言われて終わるがなっ‼︎ 20歳の本気を見せてこ―――いっ‼」
スパコーンと丸めたクリアファイルで空っぽの頭をはたかれて、軽々しい音がカフェテリアに響く。
「セ、セレナさん、もそっとお声を抑えて、…」
「これが抑えていられるか―――いっ」
まだ早い時間だからかカフェテリアは閑散としているけれど、話題が話題だけに人の耳が気になる。
「そんなことじゃいつまでたっても妹ポジションだよ? あんたオンナだと思われてないんだよ⁉ そのデカい乳は張りぼてか⁉ とっとと押し倒して、抱いてもらって来―――いっ‼︎ 」
うおーい、真っ昼間の健全な学び舎でなんてこと言うか――っ
セレナの口元を両手でふさぐと齧られた。
うう、セレナ様が荒ぶっていらっしゃる。
「まあまあ。セレナは確かにちょっと過激だけど、でもセレナの言うことにも一理あると思うよ。長年培われた関係を変えるのって、結構難しいし」
荒ぶるセレナを野放しにして呑気にサイダーを飲んでいるのはコウ先輩。
コウ先輩はクッキングサークルの先輩で、セレナの彼氏。
「少なくとも相手にその気があるかどうか分かるしね」
コウ先輩が陽だまりみたいな笑顔を見せる。
コウ先輩に言われるとそんな気がしてくるから不思議だ。確かにこのままでは、また優しいありがとうで終わってしまうような気がひしひしする。
「心配しなくても、女の子に迫られて嫌な男なんていないよ」
どう見ても草食男子代表みたいな先輩だけど、これが意外と猛獣ハンターで、セレナはコウ先輩にベタ惚れだ。
そうなのかぁ。
そうかもなぁ。
創くんは7つも年上だし、幼少時代にパンツのお世話までしてもらった仲なわけだから、そこから抜け出すには生半可な体当たりじゃ意味をなさないのかもしれない。
体当たりの重みが違った。
「…創くんをその気にさせるにはどうすれば」
最後の告白だし、無謀にもキスしちゃったし、もはや失うものは何もない。セレナ様にお伺いを立てると、即座にレクチャーしてくれた。
「相手の目をじっと見ながらブラウスのボタンをゆっくり外して乳を見せる。これ鉄壁」
「そ、…そんなことできないよ―――っ」
「じゃあ、可愛く『したいの』とか」
「余計無理―――っ」
「贅沢な奴だな」
結局カフェテリアでギャーギャー騒いでいる私たちにコウ先輩が生温かい視線を注いでいた。
「ところでさ、次のサークルのメニューどうする?」
何はともあれ脱いでみるということに半ば強引に落ち着いて、コウ先輩が話題を変えた。
「切り干し大根のアレンジ料理でしょ」
今度のサークル実習では切り干し大根を使うことになっている。煮物以外で美味しく食べられる創作メニューを開発しようと決まったはいいけど。
「私、コロッケにしたらどうかと思うんですけど」
「…コロッケ? 切り干しコロッケ⁇」
「え。…ダメ?」
先輩たちの反応が鈍いので、切り干し料理を各自試作して報告することになった。
その日の帰り、セレナに買い物に付き合ってもらった。
もはや身体を作る余裕はないけどせめて勝負下着を買おうと思う。
「よし、やる気だな、つぼみ」
だってもう。私には後がない。
「鉄は熱いうちに打て。今夜、下心の差し入れ持って彼の部屋に押しかけな。それでドーンとその下着見せてこい」
セレナに後押ししてもらってフリルの付いたパステルカラーの下着を買った。
創くんのために下心の切り干し大根コロッケも作ってみた。
ななせは普通に隣に立って、小首を傾げて私を見ると、
「大丈夫だろ」
片腕で抱えたままの私の肩を押して歩くよう促すから、私の両足もやむを得ず一歩一歩先へ進む。
「あ、…うん。そう、…ですね」
語尾が不自然に小さくなる。
ぎくしゃくと足を繰り出しながら動揺するのもおかしい気がして必死で頷く。
うん。まあ。そうか。
大丈夫。大丈夫ならいいんだ。
心臓も混乱してドキドキしていいのか落ち着くべきなのか悩んだ挙句にこっそりツーステップを踏んだ。
「…俺の角煮、無事?」
ツーステップにはまるで関心がないらしいななせが、斜め上から見下ろしてくる。
かっく。かっく。かっくにー。
心臓がツーステップで歌い出す。
そういえば、朝から宣言して出たんだっけ。
「…ななせ、もしかして、角煮を迎えに来た?」
「…だって心配じゃん?」
ななせは悪びれずに言い放つと、あー、お腹空いた、とつぶやいた。
その横顔を見ていたら、何だかいろいろ力が抜けた。
何はともあれ頑張った。頑張ったよ、私。
同じ相手に4度目の告白だけど。
何度目だって同じ相手だって、いつも。死にそうな気持ちになるんだよ。
「…もやしのナムルを付けて進ぜよう」
「やりっ」
嬉しそうなななせを見ると嬉しくなる。
ななせが料理を食べてくれると安心する。
暗い空にオレンジ色の月が微笑みながらこっちを見ていた。
はずだったのに。
「ぬるいっ、ぬるいっ、ぬる過ぎるっ‼︎ 今時小学生だってもっと進んどるわっ‼」
翌日大学で顔を合わせたセレナによって私の決死の告白はぶった切られた。
「ほっぺにちゅうぅ? どこのお子様ですか? また、ありがとう言われて終わるがなっ‼︎ 20歳の本気を見せてこ―――いっ‼」
スパコーンと丸めたクリアファイルで空っぽの頭をはたかれて、軽々しい音がカフェテリアに響く。
「セ、セレナさん、もそっとお声を抑えて、…」
「これが抑えていられるか―――いっ」
まだ早い時間だからかカフェテリアは閑散としているけれど、話題が話題だけに人の耳が気になる。
「そんなことじゃいつまでたっても妹ポジションだよ? あんたオンナだと思われてないんだよ⁉ そのデカい乳は張りぼてか⁉ とっとと押し倒して、抱いてもらって来―――いっ‼︎ 」
うおーい、真っ昼間の健全な学び舎でなんてこと言うか――っ
セレナの口元を両手でふさぐと齧られた。
うう、セレナ様が荒ぶっていらっしゃる。
「まあまあ。セレナは確かにちょっと過激だけど、でもセレナの言うことにも一理あると思うよ。長年培われた関係を変えるのって、結構難しいし」
荒ぶるセレナを野放しにして呑気にサイダーを飲んでいるのはコウ先輩。
コウ先輩はクッキングサークルの先輩で、セレナの彼氏。
「少なくとも相手にその気があるかどうか分かるしね」
コウ先輩が陽だまりみたいな笑顔を見せる。
コウ先輩に言われるとそんな気がしてくるから不思議だ。確かにこのままでは、また優しいありがとうで終わってしまうような気がひしひしする。
「心配しなくても、女の子に迫られて嫌な男なんていないよ」
どう見ても草食男子代表みたいな先輩だけど、これが意外と猛獣ハンターで、セレナはコウ先輩にベタ惚れだ。
そうなのかぁ。
そうかもなぁ。
創くんは7つも年上だし、幼少時代にパンツのお世話までしてもらった仲なわけだから、そこから抜け出すには生半可な体当たりじゃ意味をなさないのかもしれない。
体当たりの重みが違った。
「…創くんをその気にさせるにはどうすれば」
最後の告白だし、無謀にもキスしちゃったし、もはや失うものは何もない。セレナ様にお伺いを立てると、即座にレクチャーしてくれた。
「相手の目をじっと見ながらブラウスのボタンをゆっくり外して乳を見せる。これ鉄壁」
「そ、…そんなことできないよ―――っ」
「じゃあ、可愛く『したいの』とか」
「余計無理―――っ」
「贅沢な奴だな」
結局カフェテリアでギャーギャー騒いでいる私たちにコウ先輩が生温かい視線を注いでいた。
「ところでさ、次のサークルのメニューどうする?」
何はともあれ脱いでみるということに半ば強引に落ち着いて、コウ先輩が話題を変えた。
「切り干し大根のアレンジ料理でしょ」
今度のサークル実習では切り干し大根を使うことになっている。煮物以外で美味しく食べられる創作メニューを開発しようと決まったはいいけど。
「私、コロッケにしたらどうかと思うんですけど」
「…コロッケ? 切り干しコロッケ⁇」
「え。…ダメ?」
先輩たちの反応が鈍いので、切り干し料理を各自試作して報告することになった。
その日の帰り、セレナに買い物に付き合ってもらった。
もはや身体を作る余裕はないけどせめて勝負下着を買おうと思う。
「よし、やる気だな、つぼみ」
だってもう。私には後がない。
「鉄は熱いうちに打て。今夜、下心の差し入れ持って彼の部屋に押しかけな。それでドーンとその下着見せてこい」
セレナに後押ししてもらってフリルの付いたパステルカラーの下着を買った。
創くんのために下心の切り干し大根コロッケも作ってみた。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編
タニマリ
恋愛
野獣のような男と付き合い始めてから早5年。そんな彼からプロポーズをされ同棲生活を始めた。
私の仕事が忙しくて結婚式と入籍は保留になっていたのだが……
予定にはなかった大問題が起こってしまった。
本作品はシリーズの第二弾の作品ですが、この作品だけでもお読み頂けます。
15分あれば読めると思います。
この作品の続編あります♪
『ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編』
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。
石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。
すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。
なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる