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Ⅲ.あかり

23.

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有輝と私は、翌年の春に、2人の頭文字をとった『Y.A's ladder』(ヤーのはしご)というユニット名でデビューすることになった。

といっても、販売に関する本格的なことは正木さんに任せて、私と有輝は河原で歌う時とあまり変わらずにスタジオで歌うだけだった。

有輝が歌うと、一瞬で世界が音を止め、その声に耳を澄ませる。
有輝の奏でる音が広がって、心が震える。

有輝が好き。
有輝の声が。
有輝の全てが。

有輝の歌声が、春の風に乗って、世界に舞い踊っていくことになった。

街中に有輝の声が流れる。
外の世界からその歌声が聴こえてくるのは、誇らしいような少し寂しいような不思議な気持ちがした。

それでも。
有輝はまだ顔に傷があるし、広く顔をさらすことはしていないから、不用意に騒がれたり噂されたりすることはなかった。

変わらずに。
有輝と手をつないで、河原に演奏に行くことが出来た。
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