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Ⅲ.あかり
17.
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「あかり…っ」
有輝が顔色を変えてベットから飛び降り、私を抱きしめた。
瀬能くんに会って、花束を渡されたと伝えている途中で。
「なにも、されてないか?」
有輝のきれいな眼が心配そうに揺れて、抱きしめている腕もかすかに震えていた。
「有輝」
有輝が大切で大切で、私を心配してくれる有輝が愛しすぎて、精一杯抱きしめ返す。
「なにも、されてないよ。私は大丈夫だよ」
私を抱きしめたままの有輝が、短く息をつく。
「よかった…」
有輝の柔らかい髪が私の頬をくすぐる。
有輝の肌が首筋をかすめる。
顔に包帯が巻かれている間、「フランケンシュタインだな」と真輝さんに笑われていたけれど、今日、有輝の包帯が外されていた。
傷跡の深い左頬には大きなカットバンが貼られているけれど、有輝のきれいな輪郭が見える。
有輝の髪をそっとなでると、有輝が顔を寄せて、唇で首筋に触れた。
触れられたところが熱を持って、急に有輝の温もりを意識した。
有輝が私の髪に指を絡めながら、首筋に頬に耳たぶに唇で戯れる。
心臓が壊れそうな音をたてて動き出し、顔に全ての熱が集まって、息の仕方さえ忘れてしまったみたいな私に、有輝が優しく告げた。
「ありがとう、あかり」
有輝を見ると、その揺らめく瞳に私が映っていた。
「俺のところに来てくれて」
有輝が私を認めて、私を受け入れてくれたように感じた。
手を伸ばすと、そこに温かい有輝のぬくもりがあって、きれいな輪郭の滑らかな肌に触れることができた。
「ゆき」
有輝がゆっくり瞳を伏せて、柔らかく整った甘い唇で私に触れる。
「好きだ」
有輝のキスは涙が出そうなくらい優しくて、生まれて初めて、もっと、って思った。
このままずっとずっと、有輝に触れていたいと思った。
「鳴瀬くん、明日の退院についてだけど、…っ」
病室に看護師さんが入ってきたから、慌てて離れようとする私を有輝がそのまま腕で囲い込んで、
「はい」
爽やかな表情で向き直った。
…は、恥ずかしくて顔あげられない。
なんでいつも看護師さんに見られるんだろう…っ!
「あー、…えっと、いいね。いつも来てくれて」
とりつくろうように笑う看護師さんに、
「はい。可愛いですよね、俺の彼女」
有輝がうっとりするほどきれいに微笑んだ。
「なな、な、なにを…っ」
有輝がそんな甘いことを言うなんて想像もしていなくて、完全に我を失ってしまった私に、看護師さんは優しい笑顔を向けた。
「安心したわ。鳴瀬くん、ずっと、…自分を消したがってるみたいな感じがあったから、…心配してたの」
「もう大丈夫です。天使が俺を見つけてくれたから」
そう言って有輝は楽しそうに口の端をもたげて、私の額にキスをした。
有輝が顔色を変えてベットから飛び降り、私を抱きしめた。
瀬能くんに会って、花束を渡されたと伝えている途中で。
「なにも、されてないか?」
有輝のきれいな眼が心配そうに揺れて、抱きしめている腕もかすかに震えていた。
「有輝」
有輝が大切で大切で、私を心配してくれる有輝が愛しすぎて、精一杯抱きしめ返す。
「なにも、されてないよ。私は大丈夫だよ」
私を抱きしめたままの有輝が、短く息をつく。
「よかった…」
有輝の柔らかい髪が私の頬をくすぐる。
有輝の肌が首筋をかすめる。
顔に包帯が巻かれている間、「フランケンシュタインだな」と真輝さんに笑われていたけれど、今日、有輝の包帯が外されていた。
傷跡の深い左頬には大きなカットバンが貼られているけれど、有輝のきれいな輪郭が見える。
有輝の髪をそっとなでると、有輝が顔を寄せて、唇で首筋に触れた。
触れられたところが熱を持って、急に有輝の温もりを意識した。
有輝が私の髪に指を絡めながら、首筋に頬に耳たぶに唇で戯れる。
心臓が壊れそうな音をたてて動き出し、顔に全ての熱が集まって、息の仕方さえ忘れてしまったみたいな私に、有輝が優しく告げた。
「ありがとう、あかり」
有輝を見ると、その揺らめく瞳に私が映っていた。
「俺のところに来てくれて」
有輝が私を認めて、私を受け入れてくれたように感じた。
手を伸ばすと、そこに温かい有輝のぬくもりがあって、きれいな輪郭の滑らかな肌に触れることができた。
「ゆき」
有輝がゆっくり瞳を伏せて、柔らかく整った甘い唇で私に触れる。
「好きだ」
有輝のキスは涙が出そうなくらい優しくて、生まれて初めて、もっと、って思った。
このままずっとずっと、有輝に触れていたいと思った。
「鳴瀬くん、明日の退院についてだけど、…っ」
病室に看護師さんが入ってきたから、慌てて離れようとする私を有輝がそのまま腕で囲い込んで、
「はい」
爽やかな表情で向き直った。
…は、恥ずかしくて顔あげられない。
なんでいつも看護師さんに見られるんだろう…っ!
「あー、…えっと、いいね。いつも来てくれて」
とりつくろうように笑う看護師さんに、
「はい。可愛いですよね、俺の彼女」
有輝がうっとりするほどきれいに微笑んだ。
「なな、な、なにを…っ」
有輝がそんな甘いことを言うなんて想像もしていなくて、完全に我を失ってしまった私に、看護師さんは優しい笑顔を向けた。
「安心したわ。鳴瀬くん、ずっと、…自分を消したがってるみたいな感じがあったから、…心配してたの」
「もう大丈夫です。天使が俺を見つけてくれたから」
そう言って有輝は楽しそうに口の端をもたげて、私の額にキスをした。
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