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Ⅲ.あかり
12.
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なんとなく入りづらくて、談話室で待とうと廊下を戻りかけると、前からすごい勢いで走ってきた男の人にぶつかった。
「あっ!」
軽くよろけて床に手をついた私を見て、
「ごめんなさい。ごめんなさい。大丈夫ですか?」
慌てたように大きな声を出し、男の人が私をのぞきこんだ。
すごくきれいな目をしていた。
純粋で、汚れたところが一つもないような。
「…はい」
私が答えると、
「良かった」
多分、私と同じか少し年下くらいの彼は、心からほっとしたような明るい笑顔を見せた。
「それでは、失礼します」
丁寧に頭を下げると、また大急ぎで廊下を走り、
あ…
鳴瀬の病室に入っていった。
私は鳴瀬の交友関係をよく知らないけれど、鳴瀬の友達なのかな。
そのまま病室の方を見ていると、
「有輝くん、あんな友達いたんだね」
「ちょっと、意外」
クラスメイト達が病室から出てきた。
すれちがう時に向けられた視線は、はっきりと私を咎めていた。
「よく平気な顔してられるよね」
「こんなことになったの、自分のせいなのに」
聞こえよがしに言われた言葉は、間違っていない。
鳴瀬のためにできることがあるなら、何でもする。
何でも。人生をかけて。
鳴瀬の病室に入ると、さっきの男の人が鳴瀬のベットに突っ伏して号泣していた。
「うるせーって、優」
「だって、有輝くんが、有輝くんが、痛すぎるよ…っっ!!」
彼の腕になだめるように手を乗せた鳴瀬は、だけど唇に優しい微笑みをたたえていた。
「有輝くん、僕、また来るからね!絶対絶対来るから、早く元気になってね!」
優くんと呼ばれた彼は、さんざん大泣きした後、枯れた大声で、繰り返し繰り返し鳴瀬に告げた。
「いいよ、来なくて。お前また、怒られるぞ」
「有輝くんの方が大事だもん!」
優くんのきっぱりした返答に、鳴瀬は眩しそうに片目を細めた。
鳴瀬に断わって、優くんを駅まで送った。
「…だれ?やさしいね」
「鳴瀬くんの、…友だち」
私が答えると、優くんは嬉しそうに顔を輝かせ、
「僕もだよ!僕も、有輝くんの友だちだよ!
有輝くんは僕のヒーローなんだ!すごくすごく優しくて、強くて、かっこよくて。僕、大好きなんだ!」
ほんの少しもためらうことなく、堂々と言い切った。
優くんが眩しくて、切なくなる。
大人になるっていうことは、曖昧なものが増えるってことなのかな。
自分を守るために、嘘やごまかしを積み重ねなきゃいけないのかな。
「うん。…私も、大好き」
優くんみたいに、私ももう少し素直に生きられたらいいと思った。
「僕たち、すごく一緒だから、友だちだね」
優くんが手をつないでくれた。
「優等生」とか「淫乱」とか、何かのくくりに当てはめることのない、友だちの手だと思った。
「あっ!」
軽くよろけて床に手をついた私を見て、
「ごめんなさい。ごめんなさい。大丈夫ですか?」
慌てたように大きな声を出し、男の人が私をのぞきこんだ。
すごくきれいな目をしていた。
純粋で、汚れたところが一つもないような。
「…はい」
私が答えると、
「良かった」
多分、私と同じか少し年下くらいの彼は、心からほっとしたような明るい笑顔を見せた。
「それでは、失礼します」
丁寧に頭を下げると、また大急ぎで廊下を走り、
あ…
鳴瀬の病室に入っていった。
私は鳴瀬の交友関係をよく知らないけれど、鳴瀬の友達なのかな。
そのまま病室の方を見ていると、
「有輝くん、あんな友達いたんだね」
「ちょっと、意外」
クラスメイト達が病室から出てきた。
すれちがう時に向けられた視線は、はっきりと私を咎めていた。
「よく平気な顔してられるよね」
「こんなことになったの、自分のせいなのに」
聞こえよがしに言われた言葉は、間違っていない。
鳴瀬のためにできることがあるなら、何でもする。
何でも。人生をかけて。
鳴瀬の病室に入ると、さっきの男の人が鳴瀬のベットに突っ伏して号泣していた。
「うるせーって、優」
「だって、有輝くんが、有輝くんが、痛すぎるよ…っっ!!」
彼の腕になだめるように手を乗せた鳴瀬は、だけど唇に優しい微笑みをたたえていた。
「有輝くん、僕、また来るからね!絶対絶対来るから、早く元気になってね!」
優くんと呼ばれた彼は、さんざん大泣きした後、枯れた大声で、繰り返し繰り返し鳴瀬に告げた。
「いいよ、来なくて。お前また、怒られるぞ」
「有輝くんの方が大事だもん!」
優くんのきっぱりした返答に、鳴瀬は眩しそうに片目を細めた。
鳴瀬に断わって、優くんを駅まで送った。
「…だれ?やさしいね」
「鳴瀬くんの、…友だち」
私が答えると、優くんは嬉しそうに顔を輝かせ、
「僕もだよ!僕も、有輝くんの友だちだよ!
有輝くんは僕のヒーローなんだ!すごくすごく優しくて、強くて、かっこよくて。僕、大好きなんだ!」
ほんの少しもためらうことなく、堂々と言い切った。
優くんが眩しくて、切なくなる。
大人になるっていうことは、曖昧なものが増えるってことなのかな。
自分を守るために、嘘やごまかしを積み重ねなきゃいけないのかな。
「うん。…私も、大好き」
優くんみたいに、私ももう少し素直に生きられたらいいと思った。
「僕たち、すごく一緒だから、友だちだね」
優くんが手をつないでくれた。
「優等生」とか「淫乱」とか、何かのくくりに当てはめることのない、友だちの手だと思った。
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