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Ⅲ.あかり
09.
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眼帯男が嫌な笑い声を上げながら、嬉々として鳴瀬に近づいていくのを、鳴瀬は真っ直ぐに見つめ返す。
そして、
「…わかった」
鳴瀬の静かな声が聞こえた。
そのまま鳴瀬は、男たちの拘束からあっという間に抜け出すと、私の前に立ち、突き付けられているナイフを素手でつかんだ。
「…お、おい…」
鳴瀬の手が瞬く間に血で染まる。
男が怯んでナイフを離すと、鳴瀬は眼帯男に向き直り、つかんだナイフを自分に向けた。
「ひぃっ」
一瞬のうちに、ナイフの切っ先が、鳴瀬のきれいな顔を引き裂いた。
周囲に血しぶきが舞う。
鳴瀬の腕と顎から大量の血が滴り落ちる。
鳴瀬がつかんだままの血に染まったナイフが鈍い光を放って見える。
「…瀬能」
我を失って動けずに、蒼白になっている眼帯男に、鳴瀬が落ち着いた声で告げた。
「誰かを傷つけたら、一生後悔する。
俺はずっと、お前にしたことを後悔している」
鳴瀬が地面にナイフを落とすと、それが合図かのように
「俺は知らねえぞ!」
「あ、あいつが勝手にやったんだからな!」
男たちが後ずさって我先にと逃げ出した。
「狂ってる。…お前、狂ってるよっ!」
吐き捨てるように叫んで、私のスマホを投げつけると、眼帯男も茂みの向こうに消えた。
「…ごめん」
近づいてきた鳴瀬の顔が血に染まってよく見えない。
鳴瀬のきれいな顔が大きく切り裂かれてとめどなく血が溢れ出している。
鳴瀬の服も血だらけで、鳴瀬の命が削り取られているような気がした。
「…行って」
私の腕と口の拘束を鳴瀬が解いてくれた。
「…絶対に、嫌」
悲しみと怒りがショックを凌駕した。
どうして鳴瀬ばかりが傷つけられるんだろう。
スマートフォンから救急車を呼ぶと、自分の制服のブラウスを引き裂いた。
「…あかり?」
今や鳴瀬の上半身は血まみれになっている。
ブラウスで切り裂かれた顔と手を覆ってみたけれど、すぐに赤く染まってしまった。
「絶対に、離れない。お願いだから、一人で行かないで」
血だらけの鳴瀬を抱きしめた。
鳴瀬は何も言わず、目を閉じて座っている。
救急車が来るまでの時間が、永遠のように感じた。
鳴瀬から溢れ出す血が、鳴瀬の寿命を縮めているような気がして、恐怖が募る。
腕の中にある鳴瀬の温かさだけが、救いだった。
救急車で病院に搬送されると、鳴瀬はすぐに手術室に運び込まれた。
病院の廊下は妙に寒い。
座っていると肩を叩かれた。
顔を上げると、真輝さんが立っていて、私に上着をかけてくれた。
多分私はひどい格好をしているんだろう。
そして、
「…わかった」
鳴瀬の静かな声が聞こえた。
そのまま鳴瀬は、男たちの拘束からあっという間に抜け出すと、私の前に立ち、突き付けられているナイフを素手でつかんだ。
「…お、おい…」
鳴瀬の手が瞬く間に血で染まる。
男が怯んでナイフを離すと、鳴瀬は眼帯男に向き直り、つかんだナイフを自分に向けた。
「ひぃっ」
一瞬のうちに、ナイフの切っ先が、鳴瀬のきれいな顔を引き裂いた。
周囲に血しぶきが舞う。
鳴瀬の腕と顎から大量の血が滴り落ちる。
鳴瀬がつかんだままの血に染まったナイフが鈍い光を放って見える。
「…瀬能」
我を失って動けずに、蒼白になっている眼帯男に、鳴瀬が落ち着いた声で告げた。
「誰かを傷つけたら、一生後悔する。
俺はずっと、お前にしたことを後悔している」
鳴瀬が地面にナイフを落とすと、それが合図かのように
「俺は知らねえぞ!」
「あ、あいつが勝手にやったんだからな!」
男たちが後ずさって我先にと逃げ出した。
「狂ってる。…お前、狂ってるよっ!」
吐き捨てるように叫んで、私のスマホを投げつけると、眼帯男も茂みの向こうに消えた。
「…ごめん」
近づいてきた鳴瀬の顔が血に染まってよく見えない。
鳴瀬のきれいな顔が大きく切り裂かれてとめどなく血が溢れ出している。
鳴瀬の服も血だらけで、鳴瀬の命が削り取られているような気がした。
「…行って」
私の腕と口の拘束を鳴瀬が解いてくれた。
「…絶対に、嫌」
悲しみと怒りがショックを凌駕した。
どうして鳴瀬ばかりが傷つけられるんだろう。
スマートフォンから救急車を呼ぶと、自分の制服のブラウスを引き裂いた。
「…あかり?」
今や鳴瀬の上半身は血まみれになっている。
ブラウスで切り裂かれた顔と手を覆ってみたけれど、すぐに赤く染まってしまった。
「絶対に、離れない。お願いだから、一人で行かないで」
血だらけの鳴瀬を抱きしめた。
鳴瀬は何も言わず、目を閉じて座っている。
救急車が来るまでの時間が、永遠のように感じた。
鳴瀬から溢れ出す血が、鳴瀬の寿命を縮めているような気がして、恐怖が募る。
腕の中にある鳴瀬の温かさだけが、救いだった。
救急車で病院に搬送されると、鳴瀬はすぐに手術室に運び込まれた。
病院の廊下は妙に寒い。
座っていると肩を叩かれた。
顔を上げると、真輝さんが立っていて、私に上着をかけてくれた。
多分私はひどい格好をしているんだろう。
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