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Ⅱ.有輝

20.

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校庭を渡って校舎に近づくうちに、建物の中で何かが動いた。

窓際にあかりの姿をとらえると、身体が先に反応した。
校舎に向かって一心に走り、途中先生や生徒に囲まれたけれど、横をすり抜けて、
あかりがいた教室を目指した。

あかりに近づく1秒1秒を身体中が意識している。

教室の開いたままのドアから中に踏み込んだら、
窓から差し込む光を背負って、まるで存在自体が輝いているかのように、天使がいた。

いや。
天使じゃない。

大きな瞳に涙をたたえて、なぜか自分で自分の頬をつかんで、
頼りなく立ち尽くす諏訪あかりが、俺を見ていた。

あかりまで5歩。

「…来たよ」

手を伸ばせば、触れられる距離にあかりがいる。
俺を見て、話すことも忘れたみたいに、泣いている。

「会いに来た」

つかまれた頬の上を涙が伝って、あかりの唇が震えた。

あかりの震える唇は、声にならなかったけど、…それでも、伝わってきた。
あかりは俺を待っていてくれた。

胸の奥が強い力につかまれて、苦しくて切なくてたまらなくなって、あかりに手を伸ばし、涙ににじむ頬に触れた。

「…会いたいって、言ったから」

温かくて柔らかいあかりに触れる指先が震えた。

「…なるせ」

あかりが俺の腕の中に飛び込んできて、俺にしがみついて泣いた。

なくしたものが多すぎて
目を開けるのが怖かった
現実は理不尽すぎて
心を閉ざす方が楽だった

汚れきって空っぽで
恨んだり憤ったりすることにも疲れて
差し伸べられた手にも気づかずにいたんだ

今 腕の中に大切なものを抱えている
この瞬間が永遠じゃなくても
まだ未来は続いている

「…あかり」

震えるあかりを抱きしめた。

この瞬間がまたこの先のどこかにもあるのなら、何度でも俺は、やり直すよ。
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