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Ⅱ.有輝

15.

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『鳴瀬、…瀬能たちが、マサルを連れて行って、…鳴瀬を呼んでこい、って…』

下校しようと準備をしていると、蒼白な顔でクラスメイトが寄ってきた。
大会を1週間後に控えていた。

優は知的障害がある。いつも笑って俺の後を着いてくる。
きっと、殴られても、笑ってる。
でも多分、ものすごく怯えている…

『こいつ、ちびってやがる!』
『汚ねえーーー』
『お前、犬なら舐めろよ!』

優が雑木林で5人の男子に囲まれてはやしたてられていた。
脱がされたり、頭を踏まれたりして、優は泣きながら笑っていた。

『有輝くん…っ』
俺に、怯えた目を向ける優を見て、純粋に怒りが込み上げた。

『来ると思ったよ、正義のヒーロー様』
『こいつの腕、折ってやろうぜ』
『こんな顔で全国大会とか、ムカつくっての!』

腕を守るために反撃したけど、結局試合には出られなかった。

瀬能を殴って俺が得たのは、道場からの追放と母親の落胆と一生背負わなければいけない罪。
瀬能から光を奪って、家族を絶望に突き落とし、父親に足枷をはめた。

正義漢ぶった結果がこのざまだ。
だけど俺は、どうすれば良かった?

『有輝くん、転校しちゃうの?』
『ごめんな、優』
『でも、また遊べるよね?』
『…そうだな』

中学を転校した。
ちょうど良かった。

友だちなんていらない。
一人でいい。
一人がいい。

『有輝くん、嫌なこと、全部、忘れさせてあげるよ?』
『気持ちいいことだけしようよ』
『煩わしいことなんて、何にも考えなくていいんだよ』

一時の快楽だけ。
気持ちなんて、面倒なだけ。

ごみみたいな俺に、その場しのぎの奴らが寄ってくる。
何をしても、何も感じない。
全てが、どうでもいい。

澄川円香も、その中の一人だと思っていた。

でも。

『有輝くん、私もう、無理だよ。ありがとう。有輝くんに会えてよかった。…さようなら』

留守番電話に残されたメッセージに気付いたのは、明け方だった。
不吉な予感に円香を探して、冷たいプールの中で、やっと見つけた時は、もう彼女は動いていなかった。

円香は逝って、俺は目覚めた。

『僕、千羽鶴折ったんだよ。有輝くんが、目を覚まして良かった』
目が覚めてから数日たって、病室に優が現れた。

『お前、一人で来たの?』
『だって、お母さんが、有輝くんに会いに行っちゃダメだって言うんだ。でも平気だよ。僕、またお見舞いに来るよ』
『…お母さんが心配するから、もう来なくていい』
『でも、有輝くんが心配だよ。友だちだから』

『有輝くん、どうしたの?泣いてるの?どこか痛いの?』
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